【緋彩の瞳】 甘い誘い END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

甘い誘い END

「いかがでした、3人のお守り」
「まぁまぁ、楽しかったと言うことにしておくわ」
「そうですか」

 学生艦に戻ると、すぐにアッサムの部屋に向かった。夕食へと連れ出して、ヴェニスの仮面が綺麗だったことや、ルクリリが選んだランチが想像よりも高かったこと、お腹いっぱい食べた後だと言うのに、ローズヒップが大きなパンケーキをぺろりと平らげたことを報告した。同じようにアッサムからの報告によると、ゆっくり買い物をして、ほとんどお茶をして1か所にとどまっていたそうだ。ちょっと、嘘くさい。

「そうだわ、手作りの石鹸を買ったのよ」
「石鹸、ですか?」
「えぇ。ペコが欲しいというので一緒にお店に入ったの」
 1つだけ鞄に入れて持ってきた、甘いはちみつの香りのする石鹸。キョトンとするアッサムの手の平に置いた。
「………甘そうですね」
「えぇ、とてもいいでしょう?」
「はい。あの、ありがとうございます」
 アッサムは少し困ったように笑う。はちみつが嫌いなんて聞いたことがないけれど、もしかしたら匂いのする石鹸は嫌いなのだろうか。
「嫌だった?」
「いえ、まさか」
「そう?」
「はい。今日、早速使ってみます」


 だったら、一緒にお風呂でも入る?

 と言う一言を飲み込んで、ダージリンは微笑み返した。こんなところで彼女を怒らせてしまうと、グラスの水が飛んでくる恐れもある。一応は喜んでもらえて、楽しそうなのだ。あまり刺激しない方がいい。決して下心があって買ったわけではないが、これで身体を洗ってね、と言うアピールのように思えてくるのは気のせいだろうか。

「………明日、アッサムはとても甘い香りに包まれているのね。とても楽しみだわ」
「そう…ですね。あの、でしたら、その、ダージリンも同じ香りに包まれてみますか?」
「えっ?」


 それはつまりは、一緒にお風呂に入って同じ石鹸を使って、2人で背中を流し合うと言うお誘いと解釈してもいい、ということかしら。


「いえ、あの、私もそのお店に行って来たんです。グリーン達が行きたいというものですから。それで、その、ダージリンにお土産を買ったのですが、今、手元にあるのは、同じはちみつのもので……」
 背中にあった鞄から、同じ石鹸の箱が出てくる。その手元とアッサムを何度も往復して、それから手を差し出した。
「アッサム、私をはちみつ漬けにして、どうしたいというのかしらね?」
「………それは、私のセリフです」
「よろしいわ、交換しましょう」
 他の香りにしなくていいのかと聞かれたが、アッサムと同じ香りがいいからなんて言わずに笑って受け取った。お互いに交換した甘い香り。

「………あの、ダージリン」
「なぁに?」
「い、一緒にお風呂でもどうですか?」
「あら、アッサムが誘ってくるとは思わなかったわ」

 想定外の申し出に、思わずのけ反りそうになったけれど、あんまり過剰な反応をすると怒らせてしまいそうだ。自分が面倒な性格であることはわかっているが、アッサムは残念ながら、自分はまとも、と思っている節がある。かといって、そこを指摘するとネチネチと攻撃を受けるのだ。理不尽だわ、と思うが、それでも仕方がないのだ。それはたぶん惚れた弱みというもの。

「折角ですし。本当に、洗っていい香りが残るかどうかを確かめてみましょう」
「そうね」
「あとで、部屋に伺いますわ」
「よろしいわ」

 バスルームの掃除は行き届いているはず。それなりにバスタブも広いし、ゆっくりとアッサムとお風呂に入るのは、何の問題もない。ダージリンは頭の中でほんの少しだけ想像しながら、ほんの少しだけ赤い頬のアッサムを見つめた。

 
 本当に可愛い。


「…………で、あなたはグリーンたちとお茶をしていただけなの?」
「えぇ」
「それくらいなら、私を排除せずにいてくれてもよかったのに。あの子たちを押し付けてでも、どうしてもグリーンたちとお茶をしたかったの?しかも横浜で」
「………えぇ、そうです」
 絶対にどこで何をしたのか、頑としてでも話したくない様子。唇を尖らせる仕草を見せつけてくるのは、グリーンたちへの聴取を恐れているからなのだろう。
「映画でも行ったの?」
「行っていません」
「何を観たの?」
「映画を観ておりません」
「………そう?」

 どんな映画を観たのかを、楽しく報告したくない程くだらない内容だったのかもしれない。そう言うことにしておくしかないのだ。拗ねられたらせっかくのバスタイムを逃してしまう。

「いいわ。ゆっくりお風呂に入って疲れを癒しましょうか」
「そうですね」


「では、またあとで行きます」
「えぇ」
 着替えを取りに部屋に戻ったアッサムが、ドアの向こうに姿を消し、ダージリンも部屋に戻った。慌ててバスルームに向かって、すべて問題がないかを見て回り、お湯の蛇口をひねる。熱めがいい。アッサムが来て、服を脱いだころにはちょうどいい温度まで下がっているだろう。音楽かなにかをかけた方がいいだろうか、いや、そんなものを流すものが部屋にはない。ウロウロ、オロオロ、あちこちチェックし終わり、指差し確認をしていく。付き合いだしてから、一緒にお風呂に入るのは初めてだ。今まで、スパには何度も一緒に行った。2人で行ったこともあったけれど、残念ながら複数の人がいる公共施設なんて何の経験値にもならないのだ。誘ってOKと言うことは、12月の卒業試合を待たなくても、キスをさせてもらえると言うことかしら。それとも、多少のスキンシップをしてもいいと言う意思表示なのかしら。

 でも、アッサムはまさか、頬をちょっと赤くしていたにもかかわらず、“ただ、石鹸の香りを楽しみたいだけ”なんて言ってのけたりなんてこと……

 流石に子供じゃないんだから。


「………ダメだわ、少し落ち着かないと」


 ソワソワしながら部屋の中をウロウロしていても、アッサムが来なければ仕方がないのだ。深呼吸をして、何事もない風にしておかなければ。





 絨毯敷きの廊下を複数の人が近づいてくる。

 ドタドタ。
 バタバタ。

 その、とても不快で鈍い音がアッサムの部屋の前で止まった。


 その音は、朝、聞いたものと同じ。
 何だか嫌な予感がしてならない。
 とんでもない邪魔が入りそうな、そんな予感がする。


『アッサム様~』
『アッサム様~~!一緒にスパに行きましょう~!!』
『いい匂いの石鹸をゲットしましたわ~!!』


 アッサムの部屋の扉をドンドンと叩く音と、相変わらず元気な声。


『あら、あなたたち』
『アッサム様~』
『スパに行くの?』
『一緒に行きましょう、アッサム様』
 ペコがやたら誘っている声。きっと腕を捕まえて可愛い目で見上げているのだろう。アッサムがそれを断り切れるかどうか。

『……スパに行きたいの?』
『もう、準備バッチリ持ってきていますわ!』
『用意周到ね』
『いい匂いの石鹸を買ったので、アッサム様のお背中は私が』
『いえ、そう言うのはいいわ、ルクリリ』
『え?じゃぁ、私の背中をアッサム様が?』
『ルクリリ、そう言うのはいいです』
『だからボケなんですわ』



 聞き耳を立てていると、バスルームからお湯張りが終了する電子音が響いた。
 何だか、本当に嫌な予感がする。



『仕方がないわね』



「よくないわよ、アッサム」

 アッサムの、仕方がないと言うセリフは聞き飽きた。その割に、ダージリンがキスしたいと何度言っても、そのセリフを言ってはくれないのだ。ちょっと、性格に問題がある気がしてならない。

『じゃぁ、ダージリン様をお誘いしてきて。みんなで行きましょう』
『『『はーい』』』



 バスタブに溜まったお湯。ちょっと熱いくらいのお湯。一緒に石鹸で身体を洗って、甘い香りに包まれて、出来れば素肌に触れるくらい傍に寄り添って、バスタブに身体を沈める。

 沈んだのは、ダージリンの想像の世界だ。扉がドンドンと叩かれるのを背に受けながら、栓を抜いて、熱いお湯と夢を流した。1年生たちを断れば、どうしてどうしてと食って掛かるはずだ。アッサムのはちみつを掛けたような甘さが、あの子たちをあんな風に育てたのだ。



『ダージリン様~~!スパに行きましょう!!』



「…………にぎやかね、本当に」


 ドアを開けたら、ピョンピョン飛び跳ねているローズヒップの頭。その後ろに身支度を終えたアッサムが眉をハの字にしている。本当はその身支度の鞄を持って、ダージリンの部屋に来てくれるはずだったのだ。



「アッサム。甘いにも程があってよ」
「………そうですね。あの、また後日にしましょう」
「当然だわ。明日、絶対よ」
「はい。あの、私だって、その、それなりに……ちょっとは残念には思っています」

 先を急ぐ1年生たちの背中。1人1つ、いろんな香りの石鹸を持っているに違いない。楽しそうな様子を見て嫌だと言い切れるほど、アッサムは強くないに決まっているし、だからダージリンの部屋じゃなく、最初にアッサムの部屋を訪れたのだろう。ズルさの知能は高い子たちだ。

「ルクリリの背中を流したら、本気で怒るわよ」
「でしたら、ダージリンがあの子の背中を流してあげてください」
「あら、あなたはそれを平気で見ていられるの?」
「むしろ、ルクリリが嫌がるでしょうから」
「あら、喜び涙を流すわ」
「……そうでしょうか」

 スパの後、ソワソワしながら、アッサムを待っていた部屋に戻る侘しさを考えると、もう今から頭が痛い。きっと、換気扇の音が耳に触って苛立ってしまうだろう。


「帰りに、あなたの部屋に行ってもいい?」
「はい」
「今日は、まだ一度も頬にキスをしていないのよ」
「わかっています」
「あら、ちゃんとわかっているのね」
「えぇ」



 それでも、1年生に甘いアッサムは、ダージリンと2人でお風呂に入るチャンスを自ら放棄してしまう。


 ………私と1年生、どっちが大事なのかしら

 なんて言う言葉、一度は使ってみたいものね。そう思いながらも、アッサムの答えなんてわかり切っている。だから、こうして1年生たちを甘やかせているのだ。


「あなたたち、今日は1日ダージリン様の言うことを聞いて、良い子にしていた?」
「もちろんですわ。もう、全然面白くもない仮面を、じっと眺めましたわ」
「ランチ、美味しかったです」
「ルクリリが、凄く高いお店を予約して……」
「そう。楽しい1日だったのね」

 3人席の真ん中に座ったペコの頭を撫でて、運転席に座るローズヒップの頭も撫でる。

 本当に、この甘々で甘ったるい蜜の少しでもいいから、ダージリンに分けてくれたらいいのに。


 
 ダージリンは、目の前の助手席に座っている、ルクリリの頭を撫でまわした。


「今日は、とても楽しかったわねぇ、ルクリリ」
「怖い、怖い!怖いです、ダージリン様」
「あら、可愛がっているだけよ」
「嘘!凄く嘘くさいです!アッサム様、助けて!」
「大丈夫よ、ダージリン様はあなたのことを可愛がってるわ」
「違う意味の、可愛がりですよ!」


 このままだと、黒森峰に勝ったところで、本当にキスをさせてもらえるかどうか。
 取りあえず、今ある苛立ちは、ルクリリを可愛がって収めることにしよう。





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Date:2017/01/25
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