【緋彩の瞳】 ラブレター?!怪事件 ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

ラブレター?!怪事件 ①

「そうね……渡すだけなら」
「本当?!ありがとう!」


『聖グロリアーナ女学院 戦車道隊長 ルクリリ様』


 受け取った封筒に書かれた文字。そして裏には差出人は書かれていない。


「名前、書かないの?」
「あっ……中に書いていたと思う」
「わかったわ。でも、返事なんて期待しないで。今、彼女も忙しい身分だから」
「読んでもらえたら、それだけでいい」
「………わかったわ」

 受け取った手紙が折れてしまわないように、手帳に挟んだバニラは、目の前の同級生に向かって笑って見せた。あのルクリリにも、ついに……っていうかなんというか。

 聖グロの戦車道隊長という肩書きは、それだけで人を惹きつけるらしい。いや、ルクリリは勇ましいと言うか、責任感も強いし、きっと目の前の同級生にとってカッコいい隊長以外の部分は見えないのだろう。負けた試合ではあったが、黒森峰との戦いでは自ら白旗をあげてでも、バニラたちを助けに来てくれた。そう言う熱い人柄は特に、人気を得やすいのだ。

 そう。
 そう言うことにしておこう。

まさか、始末書の枚数は歴代の隊長の中でぶっちぎりだとか、カップ破壊率の高さが尋常ではない、なんて言えるわけもないし。アッサム様に罰としてお尻を叩かれたことがあるとか、「私は罪を犯しました」って書いたプラカードを首からかけて、学校内を歩き回ったことがあるって、言っても信じてもらえないだろう。

 バニラはルクリリが受け取ったファンレターを、自慢げにいろんな人に見せびらかすんじゃないだろうかと不安を覚えながら、それでも憧れに頬を染める同級生に向かって笑っておいた。

「くっそ寒い。マジで寒い」
「……ルクリリ、その言葉遣いをそろそろ直した方がいいですよ。絶対外で使っちゃいますって」
 
3月だと言うのに、海の上にポツンと漂う学生艦の上はまだまだ、真冬とそう変わらない寒さだった。でも、それは仕方がない。プラウダとの雪上合同訓練のために北上していたのだ。かじかむと言うより痛いに近い。豪雪の中の練習試合ではボコボコにされたけれど、4試合のうち1勝だけは出来た。ダージリン様曰く、1勝ならば上出来だそう。負けることで学ぶことは、まだまだ多い。負けが許されている間に、ドンドン負けることも大事なのだ。


「大丈夫だって。ローズヒップじゃないんだから」
「私は下品な言葉を使いませんですわ~」
「………聖グロを背負っていると、もう少し自覚してくださいよ」
「してるしてる、バッチリ。そこはメリハリ付けているからね」

 ローズヒップと3人、マフラーをグルグルと唇近くまで巻き、校舎に向かっていた。船はすでに横浜へとゆっくり舵を切っているが、雪に濡れた地面は生徒の足跡を無数に残していて、それがまた、なおのこと寒さを煽っている。濡れた靴で校舎内の移動をすることは禁止されており、革靴を履き替えるか、雑巾で綺麗に拭いてしまうかのどちらかだ。多くの生徒は個人の下足箱に予備の靴を置きっぱなしにしている。体育の時のスニーカーを置くためのものだが、皆、大体は3種類くらい靴を置きっぱなし。


「何だ、これは?!!!」


 ペコは下から3段目の自分の下足箱を開け、履き替え用の革靴を取り出していた。隣のローズヒップもまた、同じように履き替えている。その向こうで、上品とは言い難い大声を出す人物。ペコの知っている限り、そう言う声はもう、ルクリリしか出せない。


「どうしたんですか、ルクリリ」

 鞄を小脇に抱えたルクリリは、手袋をしている手に真っ白な封筒を持って、天に掲げるようにしていた。

「は、果し状かな………」
「ルクリリ、今度はどこの誰と喧嘩したんですの?」
「してないってば。隊長になってからは、真面目一筋だって」

 黒森峰の練習試合前も、一応は身内同士の喧嘩だったし、他校との揉め事は起こしていない。とはいえ、どんな内容かはわからないけれど、ルクリリの下足箱の場所を知っているということは、とても身近な人物であることには違いないのだ。

 今度はどこの誰に恨みを買ったのだろうか。他学部だろうか。
 ダージリン様やアッサム様のファンから、何かのクレームがついた、とか。
 

「女の人の字だ」
「……ここ、女性以外は立ち入り禁止ですよ」
「うーん。何だろうなぁ」

 透かしてみても、何も見えるはずないのに。

「開けてみたらどうですの?」
「よし、教室に行ってから開けてみよう」


 ローズヒップも興味津々な様子だけれど、ふと思った。
 万が一、本当に1万分の1の確率でラブレターだった場合、それをクラスメイトがいるところで堂々と広げるなんて、いかがなものなのか、と。




「おはようございますですわ!!みなさん、大変ですわ!ルクリリに果し状が届きましたわ!!!」


 食堂で朝食を食べた時に挨拶を交わしたと言うのに、それでも必ず教室に入るときには大声で挨拶をしてまわるローズヒップの元気な声。いつも通りのトリオの登場。大体、ニュースがあるときのローズヒップの声は、何もない日のおよそ2倍。

「果し状?今度は何をしたのかしらね、ルクリリは」
「ついに整備科から、整備ボイコット宣言を受けたとか」
「まさか。だとしたらローズヒップの方に来るはずよ」
「それもそうね」

 ルフナとニルギリは、ヒソヒソとバニラのすぐ傍でそんなことを言っているが、“果し状”であるわけがないと言う、大事なところに突っ込みを入れないのはどうしてだろう。

 どうしてもなにも、ルクリリだからだ。

「果し状って何?」
 興味津々のクランベリーが近づいていく。ルクリリの前に席がある彼女は、バニラの元をすぐに離れて、席に着いた。ワクワクした表情でルクリリを見つめているけれど、騒いだのはローズヒップだ。
「いや、果し状かどうかなんてわからないんだけど」
「え?違うの?」
「ローズヒップが騒いだだけだ」
「ルクリリが自分で果し状って言ったんですわ」
 クランベリーの隣の席のローズヒップは、マフラーを外してクルクル丸めて鞄に押し込んでいる。後ろのコートかけに一緒に掛ければいいのに。ペコは何のコメントもせず、知らないフリの様子。気づいているのかも知れない。果し状じゃないって言うことを。

「まぁ、うちの生徒なんだろうな~。私のアッサム様に近づきすぎです!みたいなクレームの手紙とか、ダージリン様に触るんじゃない、とか」
「……今更?」
 ルクリリがコートとマフラーを脱ぐと、後ろにいたミサちゃんが勝手に受け取って、ついでにローズヒップのコートも合わせて、後ろのコートかけのハンガーに通してくれた。バニラはその見慣れた風景を眺めながら、頼むから今、その手紙を広げてあげないで欲しいと心の中で強く祈ってみる。プラウダに行った中学時代の友達から受け取ったファンレターが、クラスみんなの前にさらされるなんて、あまりにも可哀相だ。っていうか、クランベリーの友達でもあるのだから、彼女だって差出人の名前を見たら、びっくりするだろうに。


「ルクリリ、それで、果し状の中身はなんて書いてありますの?体育館裏に呼び出してすの?」
「どうだろうね」
 封筒の糊の付いていないところに小指を差し込んで、ゆっくりメリメリと音を鳴らし始めた。なんてデリカシーのない人なのだろうか。何だか教室も、固唾を飲み込んで見守っている空気。バニラは眉をひそめて、どんな言葉で止めればいいのかって目が左右に泳がせたけれど、余計なことを言うと、自分があの下足箱に入れたことがばれてしまうと思って何も言えなかった。別に、バニラが書いたわけではない。でも、早とちりしそうな人が何人かいるわけだし。


「えーっと、なになに~。親愛なる、聖グロリアーナ戦車道、隊長 ルクリリ様。私は、秋のプラウダとの練習試合のときから、ずっとあなたを見ていました………ん??」


「ん??ストーカーですの?」
「………え?まさか、それって、ラブレター?」

 ローズヒップの的外れな呟きと、クランベリーのちょっと行き過ぎた解釈。

「ルクリリ、何で声に出すんですか。って言うか、そう言うのは人がいるところで読むものじゃないと思いますけれど」

 冷静なペコのコメント。わかっているのなら、どうしてもっと早くに止めてあげないのだろう。


「………え~~!やばい、これってラブレターなの?!」

 無駄に声が大きなルクリリの、その一言。教室中に響きわたった。

 違う。
 ラブレターじゃない。

ただの、本当にただのファンレターだ。本人も確かにファンレターって言っていた。憧れているんだって。隊長になって活躍することを応援している気持ちだからって、だから、付き合ってくださいみたいなものじゃないんだって。


「マジですの?!一体どこのどなたからですの?!ちょっと、頭がおかしい人ですわ、その人!」
「なんだと?!聖グロの隊長なんだぞ!モテるのが普通だろ?!」
「………は~っ!ダージリン様の足元にも及ばない、優雅の欠片もないルクリリがですの?その差出人は、ルクリリとダージリン様を間違えているんじゃありませんの?!」

 優雅の欠片もないと言う点において、似たり寄ったりのローズヒップは、“おほほほ”とふんぞり返って笑いだした。何がどうおかしいのか。バニラはストッパーのペコをじっと見つめることしかできない。この馬鹿たちを止めてあげて欲しい。

 視線がバチッと合ったペコは、小さく頷いてくれた。よかった。伝わったようだ。


「2人とも、出した人が近くにいるかもしれないんですから、あんまりネタにしちゃだめですよ」
「…………え?なんで?近くにいるってどういうこと?」
「ルクリリの下足箱の場所を知っている人物でしょう?」


 何だか騒めき始める教室は、そんな変な人がこのクラスにいる訳がないのに、と言いたげだ。あと、きっとその差出人の精神を心配しているのだろう。
 その心配はなくとも、友達はちゃんと名前を手紙の中に書いているはず。当然、どこの学校かも書いているに違いない。あわよくば返事をもらえたら、みたいなことを想っているたずだ。どこの誰かを書かないと、意味がないのだ。バニラはざわめきの中、無関係を装うために無言を貫いたまま。

「…………差出人の名前がない」
 ルクリリは封筒を確認し、それから手紙をサラリと見てから呟いた。



 …
 ………
 …………
 あの子はなんで、確認しなかったんだろう。


「じ、事件ですわ!これは大事件ですわ!!」


 事件じゃなくて、うっかりミスなんだけど。


それを今、バニラが声を大にして言える空気じゃない。みんなの視線がルクリリとローズヒップに集まってしまっているのだ。

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Date:2017/01/31
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