【緋彩の瞳】 ラブレター?!怪事件 ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

ラブレター?!怪事件 ②

「まさか、新手の嫌がらせか?!いや、でも、手紙の中では凄く応援されてる」
「思ってもないことを書いて、調子に乗る姿をあざ笑っているんですわ」
「んなわけないだろ?!うちのクラスにそんな性格の曲がった人はいない」
「では、何ですの?」
「………だから、その、応援してますって書いてあるんだし。でも、名前もないし。うーん、何か…裏があるのか……」
「ほら、やっぱりですわ~」

 流石にルクリリはローズヒップやペコに手紙を見せたりしなかった。そのあたりに配慮ができる人であって良かった。いや、この状況は良くないけれど。
 バニラは生唾を飲み込んで、取りあえず素直にファンレターとして受け取ってもらって終わりにしてくれないかしらと強く願いながら、もう一度、ペコを見つめてみる。

「差出人の名前がないって言うことは、書けない事情があると思いますよ」
「どういう事情で?」
「………恥ずかしい、とか?」 
 
 ペコは一度バニラと視線を合わせて、それからルクリリを見上げた。眉をひそめながら、それでも遠まわしにたしなめているようだけど、それを何か別の意味として理解したような頷き。


「ペコ。……まさか、ペコが書いたの?」

ルクリリが真剣な顔でペコの肩に両手を置いた。

「ルクリリ、大真面目に聞いているんですか?」
「………騒ぎ立てて悪かった。ごめんね、うん、気持ちは受け取ったよ。ありがとう。これからも応援してちょうだいね。あ、サイン、欲しい?」

 ルクリリはちゃんと大真面目なのだろうか。それともボケているつもりなのだろうか。
 いずれにしても、ペコの背後からダージリン様譲りの、青い炎が燃え始めているのだ。すぐに火消し作業をした方がいい。


「さすがの私も、堪忍袋の緒が切れますよ?」
「やっぱり隊長のファンは身近な存在なんだよな。水臭いなぁ、ペコったら」
 パンパンと小柄なペコの肩を叩く新隊長は、きっとたぶん、ちょっと本気。
「え~、ペコはそこまで馬鹿ではないですわ」
「そうよ、ペコがわざわざ時間をかけて、手紙をルクリリに書くなんてことをするはずないわよ」
 ローズヒップとクランベリーは全否定だ。毎日飽きるほどすぐ傍で過ごしていて、同じ寮の部屋。休日も何かと一緒なのだ。今更ペコがファンレターを書くメリットなんてないことは、誰もがわかっている。

「いやいや、だってほら、こう、普段は言えない想いのたけをそっと忍ばせた、みたいな?」
 
 芝居臭い言い回しのルクリリ。
 小柄な装填手の拳が、鳩尾に射程距離30センチで発射された。

「ぐふっ!……て、照れないでいいよ、ペコ」
「調子に乗ってないで、差出人がわからないのなら、もう騒がないでください。私ではありません。それは確かです。命かけても、絶対に違いますからね!」
 いつになく声を荒げて全否定するペコの本気は、痛いくらいクラスの皆に伝わっているし、なんだったら最初からルクリリ以外はそんなこと、信じてもいないのだ。ルクリリだってたぶん、半分以上はノリでやっている。……たぶん。

 誰が書いたかなんて、わからないものは、わからない。
 でも、どこかの誰かが、ルクリリを応援している。


 もうそれでおしまいにしてくれたらいいのに。



「でも、結局はどこのどなたからのラブレターなのか、わかりませんですわ」
 予鈴が鳴り響く教室、みんな、戦車道作戦ノートを手にミーティングルームへの移動準備を始める。椅子を引いたり押したりする音にまみれ、ローズヒップは唇を尖らせたまま。
「………どこの誰かと言う特定は無理ですけれど、私じゃないという証明を、今からやりましょうよ」
 どこの誰というのを、棚上げした方がいいと言う態度だったペコは、絶対どんなことがあっても自分ではない証明をしなければ気が済まないのだろうか。

 ………まさか、ペコはルクリリのことを好きだったりして。

 なんて言うことはない。

「うーん。純粋に応援していると言う言葉だけを受け取るのなら、ラブレターっていうか、ファンレターだったんだけど。何か裏がある可能性が捨てきれないし」
「誰かに何かの恨みを買った覚えがあるの?ルクリリ」
 クランベリーは心配の意味も含めて聞いているのだろう。そんな、みんなが眉をひそめるようなものじゃない。本当に、ただのファンレターなのだ。

 すべては名前を書かなかった友達のせい。
 あと、今更言えないバニラのせいでもあるけれど。

「モテるって罪だよね」

 たぶん、ルクリリの性格が事態を余計にややこしくしているのだと思う。


「あれ?どうしてここに?」

 ミーティングルームでお茶をして1年生たちを待っていると、キョトンとした顔でルクリリが入り口で足を止めた。


「暇だからよ」
「暇すぎて、1,2年生たちの反省会を見物しに来たのよ」
「私は、2人に捕まったの」
「同じく」


 3月に入ってからと言うもの、授業もすべて終えてしまったアッサムたちは暇を持て余している。卒業式だけを待つ身分の3年生たちは、学生艦の中をみんな、自由に遊び回っていた。戦車道の合同訓練でプラウダに向かったときは、学校に積もった雪で、3年生たちは学部をまたいで、雪だるまを作ったり、雪合戦をして遊んだり、毎日ずっと食堂に籠って大人数でお茶会を開いたり、平日の昼間からスパに行ったりと。名残惜しい学生生活の最後、学生艦の端から端まで、グリーンと共にカメラを手に歩き回ったりもした。ダージリンは、普段交流が少なかった学部の子たちに引っ張りだこ。いろんな人の携帯のカメラに収められたようだ。

 つまり、暇だからと言うよりも、プラウダとの合同訓練が終わった1,2年生たちを冷やかすついでに、ちょっと遊び疲れた身体を癒しに来たのだ。

「……あぁ、そうですか」
「あら、嬉しいでしょう?ルクリリ」
 ダージリンは温かいアッサムティーを飲み、にっこりと微笑んだ。グリーンはずっとカメラのシャッターを切れる体制のまま。シナモンはただ、笑顔を作っているだけ。
「いえ、まぁ、はい。そうですね」
「私たちのことは無視して、ミーティングしてちょうだい。何も言わないわよ」

 ダージリンの言葉に、無視できるほどの影の薄さでもないでしょうに、とアッサムは心の中で思ったが、言葉にはせずに彼女たちのために開けている席に座るように促した。3年生は4人とも、一番後ろを陣取って紅茶の匂いを漂わせたまま。とてもやり辛い感じのルクリリの表情。これは、戦車道3年生の伝統だ。去年も、その前の年も3年生は3月の暇な時に、ミーティングルームの後ろに座り、お茶をしていた。バニラお姉さまたちはトランプやチェスを楽しまれていることもあって、苛立ったダージリンがバニラお姉さまのチェスの駒を勝手に動かしたせいで、ミーティングの途中から言い合いになったこともある。



「では、今日のミーティングはまず、ルクリリに果し合いの手紙を送ったのは誰かを探し出すことから始めますわ!」

 1年生たちが前方を埋め尽くすと、前に立ったローズヒップが宣言した。

「待て、ローズヒップ。今はマズいよ。後ろにダージリン様たちがいるんだから」
「そうですよ。先に反省会を終わらせて、それは別の日に改めましょう」
「でも、何か裏があっての果し状なら、命が狙われているかもしれないですわ」


 また、何かつまらない騒動を起こしたのだろうか。眉をひそめてグリーンと目を合わせても、肩をすくめた様子が返ってくるだけだ。

「リゼ、あれは何事なの?」
 アッサムの前に座っている2年生の肩を叩き、ヒソヒソと確認を取ってみても、眉に寄せた皺が申し訳ないと言わんばかりに刻まれている。どうやら、2年生は全員、ちんぷんかんぷんな様子。
「ローズヒップたち、何の話をしているの?きちんと全員に説明をしなさい」
 キャンディが声を張り上げた。頼もしくなったものだ。ダージリンはアッサムの髪を引っ張って、それから面白いコントが始まる前のワクワクした笑顔を見せ付けてきた。きっと1年生たちが、何か面白いネタを披露してくれると、そんな期待をしているのだろう。

「ルクリリの下足箱に、果し状が入っておりましたの!!」
「ローズヒップ、個人的な妄想を含めずに、事実だけを述べなさい」
 鼻息の荒いローズヒップとは対照に、冷静なキャンディの声が飛ぶ。あんな声を出せるとは。シナモンはその様子を嬉しそうに見つめて、巣立った雛を見守っている親鳥の気分を味わっているみたい。
「えっと、朝、ルクリリの下足箱に手紙が入っておりましたわ。差出人の名前はありませんでしたの」
「それで?」
「犯人がわかりませんの」
「犯人って?何か嫌がらせのようなことが書いてあったの?」

 キャンディの質問に、ローズヒップは隣のルクリリに聞けと言わんばかりにその袖を引っ張った。内容を読んだのは、差し出された本人だけのようだ。

「いえ、応援しています、みたいな感じでした」
「それが果し状なの?」
「いえまぁ、私はファンレターじゃないかなって思いますが。誰が書いたものなのかもわからないですし。クラスでは、裏を読んで嫌がらせじゃないか、みたいなことになって」

 真ん中に立っているルクリリの左にいるペコが、真っ直ぐに手をあげた。
「神様に誓って、私はそんな手紙を書いていません」
「………いえ、誰もそんなことは聞いてないわよ、ペコ」
 いつになく、睨み付けるような顔でキャンディを真っ直ぐ見つめるペコの表情。1年生のクラスで、“容疑者の1人”とされたらしい。


「ちょっと、よろしいかしら?」


 さっきから、笑うのを堪えていたであろう、ダージリンの震える肩。視界の中に入っていたから、嫌な予感はしていたけれど、我慢ならなくなったのだろう。小学生みたいに手をあげて、ルクリリにアピールし出してしまった。こうなるともう、止められないのだ。アッサムたちは今、黙って彼女たちの反省会を聞くだけじゃなかったのだろうか。ダージリンのことだから、何か余計な事をするだろうとは思っていたが、案の定。

 とはいっても、アッサムも止めようとは思わない。とりあえず“事件”を解決するには名探偵が必要なのだから。

「は、はい。ダージリン様」
「まず、その封筒。あなたへと言う宛先、どんな風に書いていたのかを知りたいわね」
「あ、は、はい!」

 ルクリリはノートに挟まれていた手紙を出して、それから声を出して読み上げた。

「聖グロリアーナ女学院 戦車道隊長 ルクリリ様、と書いてあります」
「そう。あら、あなたは戦車道の隊長だったの?」
「………今は取りあえずそんな感じですが」
「なぁに?違うと言うの?」
「いえ、隊長……です」


 教室の前と後ろ、それなりに離れているのに、威圧感は空間なんて無視して、ダイレクトにルクリリに押し付けられていく。
 アッサムは紅茶を飲み干して、やれやれとため息を吐いた。
 グリーンはシャッターを押すことに夢中だ。

「そう。そうね、あなたが隊長じゃなければ、この学校の戦車道は隊長が不在ですものね」
「はぁ……はい、その通りです」
「それで?あなたたちはその手紙の差出人を探すつもりなのかしら?それとも、それが果し状…いえ、嫌がらせの類であるかどうかを調べたいのかしら?」

 ルクリリは唇を尖らせながら、もう一度手紙を1人で読み返している。声に出さない気遣いをするあたり、本気で悪意があるとは思っていないのだろう。まさか、好きですとか、付き合って欲しい、だなんて書いてあるのだろうか。

「私じゃないことを証明してください、ダージリン様」
 また、ペコが手をあげて主張してきた。ペコがこんなにも自分の意見を、しかも、大したことでもないことをアピールしてくるのは珍しい。皆、ペコを“容疑者”ではなく“犯人”と思っているのだろうか。
「あら、ペコではないわね。同じ聖グロの中にいるのに、わざわざ学校名や、ルクリリを隊長と付けたりなんてしないでしょうし。どうしてもペコがルクリリに手紙を差し出すのなら、もっと賢い方法を取るでしょうね」
「ほら!ほら!ダージリン様だって私じゃないと言ってます!!」
 嬉しそうにルクリリに主張する必死さは、何もそこまで全否定しなくてもいいのに、と思いたくなるほど。クラスでからかわれたりしたのかもしれない。可愛そうに。
「………いや、ペコの字じゃないから、わかっていたけど」
「だったら、教室ではっきりとそう言えばいいじゃないですか!」
「いや、だって誰もそんなこと思ってないけれど、やたらムキになるんだもん。面白くて、つい」
 当然ながら、ローズヒップでもないだろう。かといって、悪戯と言うか、何かの悪意がありつつも、応援をしていると言う内容の手紙を書くと言う心理が理解できない。というか、そう捉える方に問題がある。ルクリリは、何かやましいことでもしているのだろうか。


「ルクリリ」
「は、はい、アッサム様」
「本当に、応援していると言った内容なのね?」
「はい、そうです」
「好意を寄せている、と言う様子は?」
「さ、さぁ……黒森峰やプラウダの練習試合を観ていた、と書いてありました。カッコよかったって」





「………ぷっ」






 ダージリンが口元を抑えながらも、笑いを漏らす声。
 一斉にみんなが振り返ってしまった。

 

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Date:2017/01/31
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