【緋彩の瞳】 だって、恋人でしょ? ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

だって、恋人でしょ? ①

「もうすぐ、ヴァレンタインですね」


 オレンジペコ様とコーヒーを飲むお茶会。今日もいつも通り、日本で一番おいしいコーヒー豆の会社はどこなのかという調査をしなければならない。
 古めかしい感じのミルで挽かれた豆。キリマンジャロ。
 アッサムは2つの会社のものを取り寄せて、オレンジペコ様もまた、2つの袋を並べていた。それぞれ、担当の会社から持ち出したコーヒー豆。4杯も連続して飲めるはずもなく、2日前に2杯、今日が残り2杯。
 アッサムは、ゆっくりとコーヒーフィルターに入れた豆にお湯を回し入れているオレンジペコ様の傍で、タブレットを持っていた。美味しい淹れ方の検索のついでに、隅っこに見えたネット広告を眺めていたのだ。

「チョコレート、欲しいの?」
「いえ、特には」
「アッサムの場合は、ダージリンからしか要らないわね」
「………さぁ、どうでしょうか」

 少しお湯を足すごとに、美味しそうな様子で香りを楽しまれているオレンジペコ様。アッサムは時々、ちらちらと様子を気にしながらも、ネットのチョコ特集をタップしてみた。人気順に並べられているブランドのチョコたち。もう、見ただけでお腹いっぱいになる。

「さて、もういいかしら?」
「えぇ、大丈夫です」

 真っ白いコーヒーカップに淹れられた、美味しそうなコーヒー。今日のお茶受けはチョコレートケーキ。
 アッサムはスマホでカップとケーキが並んでいるのを写真に撮って、満足な頷きをひとつ、オレンジペコ様に見せた。

「美味しそうですね、このケーキ。どこのお店のですか?」
「作ったのよ」
「本当ですの?」
「えぇ。暇だったから」

 お料理がお上手と言うことは、よく知っている。何度も夕食を作ってくださいと、ダージリンと2人でお部屋に突撃したものだ。
 コーヒーによく合いそうなビターチョコレートのケーキ。アッサムは一瞬だけダージリンにも食べさせてあげたいと思ったけれど、ここでコーヒーを飲もうって誘っても、ダージリンはムッとして、コーヒーは嫌いだと言って逃げた。この、何とも言えない美味しそうな香りが近くにあるだけで、機嫌を損ねられてもメンドクサイ。

「どうしたの、アッサム?」
「いえ」
「ダージリンにも食べさせたい、って言う顔?」
「いえ。秘密にしておきます」
「あの子、今頃はバニラとお茶会しているでしょ?」

 アッサムが放課後、イソイソとオレンジペコ様のお部屋に向かうのを見送ったダージリンを、がっちりとバニラ様は捕まえておられた。あのまま引きずって、学校の外に連れていかれてしまった。お姉さまは今日、部屋に籠っていらっしゃるようだ。寒いから一歩も出たくないらしい。
 ここ最近の3年生のお姉さま方は、毎日暇を持て余しておられる。後輩たちの訓練を見学されたり、ミーティングルームにティーセットを持ち込んで、車長ミーティングを妨害されたり、良くも悪くも、残り少ない学生艦での思い出を毎日作っておられるご様子。

「バニラ様、ノエルでコーラとポテトとずっしりヘビーなバーガーを食べさせるって、おっしゃっていました」
「あら、可愛そうに」
 オレンジペコ様は、言うほど可愛そうと思っておられないコメントを呟き、コーヒーカップを持ちあげた。アッサムも同じように持ち上げ、香りを確かめるように、鼻のすぐ傍まで持ってくる。

「いい香りです」
「そうね」

 舌に流れる酸味。ジワジワと苦さが広がって、ため息を吐くと鼻から抜ける香りがまた、言いようもなく、ホッとする。残念ながら、ダージリンにはわからないだろう。紅茶も好きだけど、このしっかりと味わい深い香りも、余すことなく楽しめるコーヒーと言う飲み物を、時々、身体が欲するのだ。

「美味しいです」
「そうね」

 チョコレートケーキは、コーヒーとの相性は抜群だった。思わずオレンジペコ様に抱き付いてしまいたくなるくらい。流石、と声をあげたい。パクパクと食べ進めて、ペロリと平らげてしまいそうになるのを必死で我慢して、2杯目のために残しておかなければならないのが惜しいくらい。

「アッサム、本当に美味しそうに食べるわね」
「オレンジペコ様のケーキ、美味しいです」
「そう?ダージリンに食べさせたい?」
「ダージリンの分があるのなら、私が食べますわ」
「あら、そんなに?」

 美味しいコーヒーと、ケーキ。ダージリンと2人でお茶をするのも大好きな時間だけど、こうやって、オレンジペコ様と2人でコーヒーを楽しむことができるのも、あと2か月を切ってしまった。べったりと甘えることが許される関係は、オレンジペコ様たち3年生だけだ。お姉さま方がご卒業されてしまえば、ダージリンが学生艦の舵を取り、アッサムは全力で彼女をサポートしていく。甘えも失敗も許されたりしない、そんな場所に立たされてしまうのだ。

「明日、作り方を教えてください」
「構わないけれど、アッサムは料理できるの?」
「授業でやっておりますわ」

 当然、自炊なんてできない。
 していたら、睡眠時間を失くしてしまう。
 聖グロは学生のための食堂があるのが、とてもいいところ。
 自立心を養うことは大事だが、学生なのだから食生活は誰かにコントロールしてもらってもいいのだ。実際、寮のキッチンは使い勝手の悪い電気コンロだし、狭いし。オレンジペコ様のお部屋のように広いキッチン仕様の部屋は、とても少ない。

「シナモンから、お腹を壊したと聞いているわ」
「それは、ダージリンが作ったものですわ」
「同じチームにあなたもいた、と」

 アッサムは、担当したお菓子が時間内に作れなかっただけだ。ダージリンの様にプリンを分離させてしまったあげく、シナモンに固まらなかったプリンに似た液体を飲ませたりなんてしていない。

「それはその……連帯責任を取りましたが、ダージリンは被害を与える方ですし」
「アッサムは違うのね?」
「えぇ。適当なんて、一番嫌いですもの」
「本当に両極端よね、アッサムとダージリンは」
 あの家庭科の授業の後、ずっとその日は口を利かなかった。ダージリンはお姉さまに、次期隊長として、隊員にマズいものを食べさせると言うのは問題、って冷めた感じで注意を受けていた。お姉さまを睨み付けながらも、まったくもって反論できずにふて腐れていた姿。写真に撮っておけばよかった。時間内に課題を提出できなかったアッサムの罪なんて、すっかり忘れ去られるくらい、ダージリンのプリン事件の噂は、あっという間に生徒の間に広がったのだ。

「ですが、きちんと量る方が美味しいと本に書いてあります」
「はいはい、そうね。わかったわ。じゃぁ、このケーキはそこまで難しくないものだし、あなたが作ってダージリンに食べさせてあげたらどう?」
「あ……いえ、別に誰っていうことでは」
「ダージリンだって、きっと喜ぶわ」

 別に、ダージリンに食べさせたいなどと考えてお願いしたわけじゃないけれど、オレンジペコ様に頭を撫でられたので、違う!と言い出せなかった。アッサムはただ、残り少ない時間を少しでも多く、オレンジペコ様と過ごしたいだけなのだ。結果的にはダージリンにも食べてもらうかもしれないけれど、目的ではない。


「さて、じゃぁ2杯目に行きましょうか」
「はい」
 
 
「ダージリン?」
 コーヒーを飲み、オレンジペコ様のお部屋でのんびりくつろいで、一緒に洋画のブルーレイを観た後、部屋に戻るとダージリンがベッドでうつ伏せになっていた。

「…………アッサム、遅いわ」

 声だけですぐにわかる“機嫌の悪いオーラ”。
 そっと傍に近づいて、その頭を撫でてみる。ぬぅっとあらわれた、唇を尖らせている子供みたいな顔。随分とバニラお姉さまに遊んでもらったみたい。
「どうしました、ダージリン?」
「コーラなんて嫌いだわ」
「……あぁ」
「あんなもの、学生艦に積み込む必要などないわ。来年からは禁止にしましょう」
 ダージリンにはなくても、紅茶に飽きた生徒たちは好んでいたりもするのに。なんて言わずに、ヨシヨシと頭を撫でてあげる。
「バニラ様に飲まされましたの?」
「だって、飲めないの?って馬鹿にするんだもの」
「………どうしてそう、何でも受けて立つんですか」
 最近のバニラ様は、卒業試合も終わり、毎日ご機嫌なご様子だ。ふんわりとした銀の髪、性格も穏やかでふわふわされている……と思っていたのは夏まで。
 ダージリンとアッサムの前では猫を被ることなく、実はかなりの行動力をお持ちのお方で、お姉さまもかなり振り回されているらしい。今まで、一度も2人で外に遊びに行くこともしなかったものだから、船を降りると首輪を引きずるように、あちこちデートに行かれていて、お疲れの様子。
 今日は、車長ミーティングの時に、後ろを陣取って、お姉さまとチェスを楽しまれておられた。お姉さまのあれは付き合わされているような顔だったけれど、バニラ様は完全に、ダージリンを挑発している様子だったのだ。またそれをさらっと受け流せばいいのに、ダージリンたら。靴音を鳴らしてお2人に近づいて、バニラ様のチェス駒を動かして喧嘩を売ったのだ。

 おかげで、気持ち悪い笑顔同士の喧嘩が始まった。それでも、ダージリンとバニラ様は仲がいいと思う。本当にお互いに嫌いなら、近づいたりしないだろう。

「コーラも飲めなくせに隊長を務めるつもり?なんて言うからよ」
「飲めないじゃないですか、実際」
「恐れは逃げれば倍になるわ」
「立ち向かっても、倍になっているみたいですわよ」

 放課後、ノエルに連れていかれたダージリン。そこで大嫌いなコーラとずっしりと重たいバーガーにポテトを本当に口にしたようだ。満面の笑みでやり過ごしたのだろうか。その様子を見たかったような、いなくてよかったような。

「アッサム、どうして助けに来なかったの?」
「オレンジペコ様とコーヒーを飲むのを、嫌だと言ったのはダージリンですわ」
「私を1人にさせるから、バニラ様に目を付けられるのよ」

 とはいえ、最初に売られた喧嘩を買ったのはダージリンだ。
 いえ、喧嘩を売った方が悪い。とはいえ、バニラ様なわけで。
 後でお姉様に聞いたのだけれど、毎年、3年生がこの時期に、ミーティングの邪魔をするのは悪い伝統なんだとか。良くも悪くも、耐えられずに行動に出たダージリンの負け。ダージリンの意地悪な一手が、バニラ様の負けを導いたのだ。そのチェスの勝負で、今日の放課後の過ごし方が決まったらしい。お姉さまと遊べなくなったわけだから、ダージリンがその穴を埋めるのは仕方のないことだ。

「気持ち悪いわ」
「………お夕食は、いらない感じですね」
「いらないわ。胃薬を頂戴」

 苦手なコーラ。ダージリンはバニラ様が勝手にLサイズを頼んだものを、無理やりに飲み切ったそうだ。ノエルのハンバーガーも、ダージリンはフィッシュバーガーしか好んで食べない。この様子だと、荒々しいお肉と、こってりしたマヨネーズソースを挟んだものを、食べさせられたのだろう。素直に無理と言えばいいのに。

「アッサム。あの人は鬼だわ」
「遊びに付き合うダージリンも悪いんですわ」
 グラスに水を入れて、薬箱から胃薬を取り出し、錠剤をその手の平に置く。モゾモゾと起き上ったダージリンは胃を抑えながら、薬を飲み込んだ。アッサムにしがみ付いて、悔しそうなため息ひとつ。ダージリンをこんな顔にさせるなんて、流石の3年生と言ったところ。でも、それもあと2か月もない。いなくなる寂しさを想うと、一緒にいたいと思ってしまうのは、ダージリンだって同じなのだろう。


 ……たぶん。


「アッサム、オレンジペコ様とは楽しかったの?」
「えぇ、とても」
「………私、明日はあのお方の背中に庇護されなければ」

 
 残念ながら、明日の放課後はアッサムと一緒にケーキを作るのだ。一応は、ダージリンに食べさせるためということで。ヴァレンタインだし。お姉さまたちの分も作るつもりだけど。

「オレンジペコ様、明日はお忙しいみたいですよ」
「あら、どうして?」
「さぁ、用事があるそうです」
「では、あなたと部屋に閉じこもるわ」
「私、予定を入れてしまいました」

 しがみついている指先に抗議の痛み。ヨシヨシと結った髪を撫でたところで、アッサムの身体から離れる様子なんてない。

「そんなものは断わってしまいなさい」
「約束を反故にするのは、ちょっと難しいです」
「私を放置するおつもり?」
「ですが、仕方ないんです。約束を先にした方を優先しないと」

 イヤイヤイヤと顔をこすりつけてくる。時々、2人きりになると子供のような駄々っ子になるのは知っているが、バニラ様に負けた鬱憤も重なっているから、ふて腐れ具合はいつもより多い気がする。

「アッサム、私のことは好き?」
「もちろんです」
「なら、明日の放課後は私の傍にいなさい」

 何というか、お姫様みたい。流石、ダージリン。

「傍にいると、ダージリンに渡すヴァレンタインのプレゼントがなくなりますが、よろしいですか?」


 …
 ……
 ………



 ヴァレンタインと言う響きに反応した身体。爪痕が付くくらいの力が抜けたようだ。天秤にかけているのが、手に取るように伝わってくる。バニラ様に捕まりたくないけれど、1人でいたくもないし、アッサムに張り付いていると、プレゼントをもらい損ねる。どういう行動を取ることが有効なのか。
「………ヴァレンタインね」
「はい」
「私、チョコレートは好きよ」
「あら、そうですか」
「買いに行くの?」
「秘密です。そう言うのを先に聞いても仕方ありませんわよ?」


「………それもそうね」


 あれだけふて腐れていたのに、何だか急にソワソワしだしたダージリンは、アッサムから離れて、仕方がないと言わんばかりに自分を納得させているようだ。
「バニラ様から逃れられるように、祈っておいて」
 明日は、どんな戦いになるのだろう。胃もたれで動けないダージリンの頬にキスをして、アッサムはお腹が空いたので食堂で軽く食べてくると伝えた。ダージリンはまだまだ、食べるものを見たくないらしい。


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Date:2017/02/20
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