【緋彩の瞳】 だって、恋人でしょ? ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

だって、恋人でしょ? ②

「お姉さま」
「アッサム。ダージリンは?」
「ノエルのコーラとバーガーに胃もたれとか」
「……あぁ」

 食堂に行くと、お姉さまが1人で幹部席に座っている。珍しいこともあるものだ。そう言えばオレンジペコ様は情報処理部の人たちと外に出掛けると言っておられた。アッサムはサラダとスープをトレイに乗せて、直ぐ隣に腰を下ろした。遠巻きにお姉さまを眺めていた生徒たちのざわめきはぴたりと止まった。

「バニラ様も?」
「あの子、ベッドでうずくまって、ずっと、気持ち悪いって言っていたわ。動けないみたい」
「………ダージリンもです」
「馬鹿ね」
「はい」

 お姉さまの冷たい呟きは、ダージリンには可愛そうだけれど、あまりにもごもっとも過ぎて。バニラ様がけしかけるからですって抗議してあげたい気持ちもあるけれど、受けて立った方も悪いのだ。ただ、バニラ様もベッドに突っ伏しているのだったら、この勝負は引き分け。報告をしたら、ダージリンの落ち込みも回復するだろう。

「お姉さま、ヴァレンタインに何かリクエストは?」
「ヴァレンタイン?あぁ、そうね。そういう時期ね。別に何もしなくていいわ」
 お姉さまはまだ、学生艦の責任者であり、この聖グロの学生艦の中で一番モテる人だ。年頃の男性のいない場所なのだから、当然、生徒たちはお姉さまや、オレンジペコ様、バニラ様に恋い焦がれ、ヴァレンタインに何かしらの行動を起こすに違いない。クラスメイトは特に、何かをするなんて言っていなかった。明後日だと言うのに、それほどざわついていないのは、お姉さまが笑顔でチョコを受け取りそうにない人だと、空気を読んでいるからだろう。勝手な予想だけど、外から見えたら、ふんわり天然系のバニラ様に、チョコレートが集中してしまうかもしれない。

「お姉さま、私、チョコレートケーキを作るんです」
「アッサムが?」
「はい。オレンジペコ様に明日、教えていただくことになっていて。もし、もらってくださるのなら、お姉さまの分も」
「そうなの。じゃぁ喜んで」

 アッサムが気にしたのは、バニラ様のことなのだけど、お姉さまはそういう所に敏感なお人ではないのだ。ニッコリ嬉しそうに笑うから、まぁ、別に今までだって何かといろんなものをもらったりあげたりの関係なのだし、と同じように笑った。明日、まずは買い物に行って、材料とか、プレゼント用のケースを揃えないと。もちろん、ちゃんとダージリンの分も。






「アッサム」
「あ、バニラ様。ごきげんよう」
 次の日の放課後、ダージリンはバニラ様に捕まらないようにと、シナモンの腕を掴んで、早々に街にお茶に出かけた。逃げる顔は真剣だったが、アッサムがケーキを作ると言うことは素直にうれしいらしく、さっきも、とても楽しみにしている、なんて言い残していたから、相当な期待を受けているということはわかった。目的は、オレンジペコ様とケーキを作ることだなんて、もう言えないだろう。ダージリンにイチイチ言う必要もないことだから、楽しみにしているのなら、それはそれでいいのだけれど。

「聞いたわよ、ペコとラブラブクッキングなのでしょう?」
「普通にケーキを作ります」
「あらやだ。ケーキなの?とても面倒な日本食を作るって言っていたのに」

 それは、きっと……そう言っておいた方がいいと思われたからに違いない。
 そんな嘘を吐くようになんて指示を受けていなかったものだから、うっかり本当のことを言ってしまって、マズい、と悟ったのだけれど。

「………あ、えっと、日本食です」
「嘘でしょ。ケーキでしょ?」
「いえ、煮物とかお魚を3枚におろすとか、です」
「ケーキでしょう?」

 買い物に行こうとランドローバーの鍵を手にしていた。その腕をがっちりと掴んでくるバニラ様の瞳。背筋が痛い程、嫌な予感がする。

「どうされましたの?バニラ様」
「買い物に行くの?」
「え?えぇ」
「小麦粉とかバターとか?」
「……お魚です」
「ビターチョコレート?」
「その、……オレンジペコ様は許可されましたの?」
「大丈夫よ」

 大丈夫と言うのは、どういう意味の大丈夫ですか。そう尋ねるよりも早く、車の鍵を奪われて、ついでに解放されなかった腕は引っ張られて、助手席に押し込まれてしまう。
「バニラ様、お料理できますの?」
「ペコが先生なのでしょう?」
「あの、でも……」

 オレンジペコ様が嘘を吐いて、バニラ様の参加を拒否されたのには、それなりに理由がおありに違いない。怒られてしまう気がして、とても嫌な予感がする。


「………バニラ、どうしてあなたがいるの?」
「アッサムとばったり出くわして」
「それで?」
「ダージリンのために美味しいケーキを作ると言うから」
「……それで?」
「私もアールグレイとペコのために、美味しいケーキを作ろうと思ったの」

 オレンジペコ様は、ふわふわと微笑むバニラ様を睨み付けた後、その怖い視線でアッサムを睨み付けた。

「私は、別にダージリンのためなんて言っていません!」
「アッサム、そこじゃないわ」
「…………はい」

 真っ白で無駄に高そうなエプロン。それを見ただけで、バニラ様の料理経験の無さと言うのはわかる。アッサムは中学時代の家庭科の授業で縫ったエプロンを付けた。これは、提出に間に合わせるために、家でずっとずっと縫い続けた想い出のエプロン。
「あら、そのエプロン。とても可愛いわね」
「ありがとうございます。バニラ様のエプロンは真っ白ですね」
「そうでしょう?毎回、使うたびに再起不能にしてしまって……洗濯しても落ちないのよね。これで何着目かしらねぇ」


 ……
 ………

 
「オレンジペコ様!」
「………言っておくけれど、連れてきたのはアッサムよ」
「そんなっ!」
「ダージリンとはタイプが違う意味で、厄介な子なの」
 
 それは、何となくもう、“バニラ様”というだけでわかっている。
 ただ、どういう方向性で問題があるのか、それが大事なのだ。


バニラがアッサムと同じ種類のケーキを作るなんて、絶対に嫌だなんて言うものだから、オレンジペコは致し方なく、バニラには違う種類のものを作らせることにした。アッサムには、昨日作っておいたレシピの紙を渡して、取りあえず、書いてある通りにしなさいと指示を出した。バニラにお金を払わせたらしい、大量のチョコレートがテーブルの真ん中に置かれている。一体何人に配るつもりなのだろうと、2人を交互に見つめると、ため息しか出てこない。


「バニラ、いい?これはゲームじゃないの。速さを競うものじゃないから、飛び散るほどのスピードでハンドミキサーを使わないで」
「わかっているわよ」
「ボウルをしっかり腕で固定させないと、大変なことになるの」
「何度も経験したわ」
「1度で学ばなかったでしょう、あなた」


 そのやり取りを聞いていたアッサムが、必要な材料を抱えて、リビングのテーブルに移動していった。オレンジペコの部屋のキッチンは、寮の中で一番大きいけれど、3人並ぶと、それなりに狭い。あの子はリビングを汚す事はしないだろう。レシピさえあれば、放っておいても大丈夫そう。

「あらやだ、アッサム。どうして一緒にやらないの?」
「身の危険を感じたのよ」
「酷い子だわ」

 ボウルに割った卵の欠片。『卵黄と卵白を分けて』と1行目に書いてあるのがわかっていないのか、この馬鹿は。
「殻。あと、卵黄と卵白をどうやってこれから分けるの?」
「もう一つボウルを使えばいいんじゃない?」
「私の部屋に、何でも沢山ないわよ」

 だから、殻を全部取って。


 リビングのアッサムをチラリとみると、秤を睨み付けて、恐る恐るバターを計っている。あの様子だと、何時に終わるのかわかったものじゃない。


「ちょっとバニラ。殻を全部取ってから混ぜなさいよ」
「だって、取れそうにないもの」

 取ろうとする努力をしないからだ。
 混ぜてしまえばわからないなんて言い出して、ハンドミキサーのコンセントを入れようとするから、慌ててボウルを奪い取った。

「バニラ、追い出されたい?この部屋でやる以上、私の言うことを聞きなさい」
「だって、アッサムより早く終わらせたいじゃない?」

 そんな対抗心を燃やさなくても、あの子のあの様子じゃぁ、夕食の時間になっても終わりそうにない。

「絶対、バニラが早く終わるはずだから、丁寧にしなさい」
「………今更、殻が入っていてもわからないわよ」

 過去、何度も殻入りのケーキやクッキーを食べさせられてきたことを言っているのだろうけれど、だからバニラは家庭科の成績が酷いのだ。ハンドミキサーのモーター音が好きだとか言って、何度周りの人が悲鳴を上げたことか。


「追い出されたい?」
「………ペコ、怖い」


 殻を取るのが嫌だと言うので、一度卵白を捨てさせて、結局1からやり直し。アッサムはようやくバターの計量が終わって、薄力粉を計っているようだった。3g程度の違いなんて、気にしなくてもいいって、口に出してあげない方がいい。反論してくるだろうから。




 本当なら、アッサムとの約束であって、アッサムに付きっ切りになるはずだったけれど、キッチンを散らかしかねないバニラの行動が怖くて、監視をずっと続けていた結果、ほとんどアッサムを放置することになってしまった。とはいえ、チラチラと確認するたびに、アッサムは秤を睨んでばかりだ。バニラが生地を型に流し込んでいる頃、アッサムはまだ、薄力粉を振るいに掛けていた。しかも、更にそれを計量していて、その誤差を取り戻そうとしているものだから。

「………どっちも面倒だわ」

 どのみち、バニラとアッサムの作っているものは焼く時間が違うから、先にバニラのものを作り終わらせてしまおう。

「あの子、あれは何をしているの?」
「あなたと違って、几帳面なの」
「あらやだ、度を越しているんじゃない?」
「いいじゃない。ダージリンのために丁寧に作っているのだから。バニラみたいにいい加減な感情じゃないということよ」
 結局のところ、バニラに口うるさく注意をしてばかりで、何だかんだとオレンジペコがほとんど作った気がするのだけれど、いつも通りのことなのだ。こうやって、お節介しすぎるし、バニラはいつも人を動かしてしまう。それも才能の一つ。ふわふわと笑って穏やかそうに見えるから、みんな手を差し伸べてしまいたくなるのだろう。

「アッサム、私が手伝ってあげましょうか?」
「嫌です。絶対に何も、触らないでください」
「あらやだ、怖い」
「焼いているのを待っているようでしたら、ベッドルームかどこか、違う所に行ってくれませんこと?」

 ようやく生地を作り始めたアッサムは、ボウルを抱きしめてバニラから我が子を守ろうとしている。気持ちはわかる。ダージリンへの想いがいっぱい詰まっているのもよくわかる。

「アッサム、陽が暮れてしまうわよ?秤ばかり見て、時計を見ていないって問題じゃない?」
「いいんです」
「ペコの部屋なのよ。今、この時間でまだ、かき混ぜているなんて、夕食を食べないつもりなの?」

 バニラの言っていることはごもっともだけれど。

「バニラ様にだけは、言われたくありません」

 ほら、言い返されるのがオチ。

「あらやだ、アッサム。あなたとは一度、色々と決着を付けないといけないみたいね」
「私には、決着を付けないといけない事柄なんて、ありませんわ」

 仲がいいのか悪いのか。表面的な部分も、内面的な部分も全然違う2人は、アールグレイという人物を間に挟んで、お互い睨み合っているような、手を繋いでいるような。

 でも、全然違う癖に、好きな人に対して一途という所はそっくり。

「はいはい、2人とも。バニラ、あなたはおとなしく紅茶でも飲んでなさい。それが嫌なら、一度出て行って」
「ペコは誰の味方なの?」
「アッサムとのケーキ作りに、割り込んだのはあなたよ。一切の文句を、あなたが言う権利はないの」

 頬に空気を貯め込んで、プンプンしながらお茶を沸かすと言うから、その準備はしなくて結構だと、ソファーに座って動くなと命じた。

「アッサム、大丈夫?」
「はい」

 一生懸命、ケーキを作っている姿。やっぱり、キチンと生地の状態が問題ないか、確認くらいはしてあげないと。ティーパックのアールグレイを適当に淹れて、バニラの前に置いた。



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Date:2017/02/20
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