【緋彩の瞳】 Love letter from Rei

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

Love letter from Rei


家を出る5分前にアポを取って、ほとんど押しかけのように遊びに来たのだから、少しくらい相手にされない程度で怒っても仕方がないことくらいわかっている。世界中飛び回って忙しくしている人を好きになったのだから、多少はこういうことを理解しているつもり。
だけど。
「ねぇ」
最初は控えめに呼びかけてみた。遊びに来たときに、出迎えてくれて、冷たい紅茶を淹れてくれたときまでは、いつもと変わらなかったのに。
「…みちるさん」
“ちょっと、お仕事の途中なの”っていうから、レイは邪魔をしないからと近くで見ていようと思ったけれど。
「…ねぇ、ったら」
こんなの仕事じゃない。テーブルの上に広げられた、色んな形の封筒。すでに開封されているものばかりを見ると、ファンレターなのだろうけれど。それにしても、ざっと100以上はあるに違いないそれを、目の前の彼女はすごく楽しそうに1つ1つを丁寧に読んでいるのだ。時々控えめに声を出して笑ったり、ちょっと驚いた表情をしたりして。
「読んでもいい?」
読み終わったものらしいものの中から、海の絵の描かれてある封筒を取ってみた。
「どうぞ」
返事があった。けれど、便箋から視線があがってこない。
「…何よ」
そんなに褒め言葉ばっかりなのかしら。ありふれた褒め言葉なんて、言われすぎて面白くともなんともないくせに。綺麗な便箋を広げて、レイもみちると同じように最初の一文から丁寧に読み始めた。
                 ………
こういうものはファンレターとは呼ばない。ラブレターの間違い。
CDの感想から始まったその文章は、いつしか、みちるの理想の男性はどんな人かという質問、やがて自己アピールへと変わってゆく。しかもレイとはあまり変わらない年齢男の子だ。
「…ふん」
こんなもの。こんな手紙送ったからって所詮憧れで終わるってわかっているくせに。乱暴に便箋を封筒に戻して、ぽいっと元の場所へと投げる。
「レイ」
「…何」
「これ、かわいいの。ほら」
怒られるかと思ったら、関心は別のところへ行ってしまっている。“ほら”と言うから、レイはみちるの隣に移動した。これなら、みちるが読んでいるものを覗けるし、どこの部分を読んで喜んでいるのか位、簡単に想像できるから。読心術っていうやつだ。
「きったない字」
「5歳の子なんだから。ひらがなを書けるだけで十分よ」
そう言って、読みにくい字を追いかける目。
「ほら、ここ」
指を指された場所のひらがなを、レイは心の中で読んだ。
「…」
本当、面白くない。
「かわいいわね。本当に大人になったら迎えに来てくれるのかしら?」
5歳の言うことなんて、極端な話、一日経ったらころっと変わるものなのに。こんなつまらないことに一喜一憂するなんて、馬鹿馬鹿しい。
「5歳の子が20歳になって、たとえみちるさんを迎えに来ても、みちるさん結構いい年になってるわよ」
「ふふ、そうね。飽きられちゃうわね」
笑うところじゃない。笑わせるつもりで言ったわけじゃないのに。よほど機嫌がいいらしい。
ファンレターごときに嫉妬するのは筋違いだとは、十分承知している。手紙は所詮手紙。みちるが1つ1つに返事を書くこともない。せいぜい公式HPでお礼を言う程度だ。だから、別にかまわない。それも仕事のひとつなのだから。
それでもさっきから、男性の手紙ばかりで、8割以上は軽く口説いているような内容ばかりだ。そんなものを嬉しそうに読むこともないのに。
「レイ、何?」
手紙を持つ両腕をつかむと、レイはその腕の輪の中に頭を突っ込んだ。それから、よいしょっと、強引に体を押し入れて、みちるの膝の上に向かい合って座る。小さな子供を抱っこして座るお母さんみたいになったみちるは、いきなり何をするのかと少々呆れたような視線を向けたけれど、レイはそんな視線、なんとも思わない。
「重たいわ。赤ちゃんじゃないんだから」
背中を抱こうとしないで、手紙の続きを読もうとするから。レイは両手でみちるの右手から無理やりに手紙を奪った。破ったら絶対怒られるから、それだけはしないけれど。ぽいっと放った手紙の行方をみちるの視線が追いかけて、フローリングの床に落ちたのを見届けると、ゆっくりとまた、レイへと視線が上がる。
「…」
「…」
「…わかったわよ」
何も言わない代わりに左の頬だけを膨らませていると、諦めついたようにみちるはレイの背中を抱いてくれる。
「まったく、もう」
レイは、会ったこともない手紙の主たちに対して、優越感を感じずにはいられない。みちるの膝の上を独占できるのは自分だけなのだから、そんなつまらない優越感なんて、馬鹿馬鹿しいことだって頭ではわかっているけれど、心が許さない。みちるを喜ばせるのも驚かせるのも、怒らせるのも、嫉妬させるのも、1番は自分で2番以降は必要ないだなんて、ちょっと思ったりもする。でも、レイは感情を素直に言葉に出したりするのが少し苦手だから、それほどに大好きで愛していることが、みちるに全部伝わるまでは、まだまだレイは頬に空気をためる日々が続くかもしれない。


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Date:2014/02/11
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