【緋彩の瞳】 だって、恋人でしょ? ④

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

だって、恋人でしょ? ④

 朝、食堂ではいつもと違う景色が広がっていた。幹部席の後ろには長机が用意されていて、『手作りの食べ物は禁止。幹部へのプレゼントはこの中に入れること。差出人の名前がないものは破棄』と書かれたプラカードと、5つの箱が用意されていた。アールグレイ様、オレンジペコ様、バニラ様には1人1つの箱があって、2年生のトップ3人のお姉さまたちは1つ、そしてなぜか、1年生の箱、つまりダージリンやアッサムたちのものまである。

「おはようございます、お姉さま方」
「おはよう、アッサム」
「あれ、なんですの?」

「以前、とんでもない数のチョコレートをもらったお姉さまがいらして、ファン同士が小競り合いみたいになったの。それ以来、平等と秩序を守るために、あぁいうことをしているのよ」

 ヴァレンタインにプレゼントという行為そのものを、禁止にしてしまえばいいのに。なんて言えば、自分が作ったものを否定してしまうことになるから、アッサムはつばを飲み込んだ。早朝にオレンジペコ様のお部屋に取りに行った箱。「手作り禁止」に違反しているのだけれど、大丈夫だろうか。まぁ、渡す本人の許可をもらっているわけだし、幹部が幹部に渡すことまで、ルールに従うことなんてないだろう。


「バニラ様」
「おはよう、アッサム。よく眠れた?」
「はい。昨日、ありがとうございます」
「子供みたいに寝ちゃって。可愛い顔していたわよ」

 ダージリンもお姉さまもバニラ様もオレンジペコ様も、朝の定食のトレイを手になんてしていないから、アッサムのケーキを楽しみにしてくれていることはわかっている。あと、バニラ様の分も。バニラ様なんて、勝手に1人2つのケーキ皿を用意していて、とても周到でいらっしゃる。


「どうぞ、ダージリン」
「ありがとう、アッサム」

 ビターチョコが好きだと宣言したからか、オレンジペコの茶葉をチョイスしたダージリンは、お姉さま方にも紅茶を配ると、アッサムが渡したケーキの箱をとてもうれしそうに両手で受け取った。

「ダージリンは、このケーキはいらないでしょう?」
「別にいりませんわね」
「あらやだ、じゃぁ、本当に食べさせてあげないわ」
「私には、アッサムのケーキだけで十分ですわ」

 バニラ様が、よもや手作りでケーキを作っていたなんて思ってもみなかったのか、お姉さまは顔を引きつっておられる。

「……まさか、バニラが作ったの?」
「昨日、3人で仲良く作ったのよ。ね、ペコ?」
「大丈夫よ、アールグレイ。こっちのケーキ、半分以上は私が作ったから」

 ダージリンは3年生たちの話なんて一切聞こうともせず、木苺のたっぷり乗ったケーキをキラキラした瞳で眺めている。とても嬉しそうで何よりだ。

「お姉さま、どうぞ」
「ありがとう、アッサム」

 バニラ様がホールケーキを切って、お皿に乗せている間、アッサムはお姉さまにもケーキの箱をお渡した。オレンジペコ様にもお渡して、バニラ様の目の前にもそっと置いた。


「アールグレイ」
「どうしたの、バニラ?」
「どうして、先にアッサムのものから手に取るの?」
「だって、おいしそうだもの」

 空気を読むなんてできないお姉さまは、先に渡した方から手にしただけなのだろうけれど、こういう時くらい、恋人の作った方から食べるべきなのだ。


「アッサム、とても美味しいわ」
「そうですか。時間をかけた甲斐がありました」
「木苺がいっぱいね」
「はい」

 3年生を完全に無視して、ダージリンはアッサムに嬉しそうにアピールしている。

「アッサム、私のケーキには木苺が1つしかないわ」
「1つあればいいじゃないですか」
「ダージリンには5つ。アールグレイたちは2つだわ」
「昨日、つまみ食いされていたからですわね」

 バニラ様と睨み合っている間、ダージリンもお姉さまもパクパクとアッサムが作ったケーキを食べている。オレンジペコ様もバニラ様のケーキより先に、アッサムの作ったケーキを美味しそうに食べていらした。

「………アールグレイ、あっという間にアッサムのケーキを食べたわね」
「美味しかったわ」
「………あらやだ、お腹いっぱいだなんて言わせないわよ」
「こっちは、ゆっくり食べるわよ」

 まぁ、お姉さまは子供の頃から、大事なものほど後に取っておく性格でいらっしゃるから、アッサムのものを先に食べたことが、凄く悪いことでもないけれど。


「美味しいですわ、バニラ様」
「本当?初めてエプロンを汚さずに作ったわ」


 アッサムだけは、何だか可愛そうだから、バニラ様のチョコレートシフォンを先に食べることにした。ダージリンの幸せそうな顔を眺めながら、やれやれとため息を吐かれておられるオレンジペコ様の表情も視界に入ってくる。


「………お察ししますわ、オレンジペコ様」
「ありがとう、ダージリン」

 いろんな人たちの視線をたくさん浴びながら、手作りのケーキを食べている隊長たちの姿。一般の生徒たちは何を想うのだろう。きっと羨ましいって思われているのだと思う。バニラ様の手作りケーキを食べるなんて、と。整備科あたりから、何か文句を言われそうだ。


「ねぇ、アールグレイ。どっちのケーキが美味しかった?」
「どっちも美味しかったわ」
「そう言う答えはいらないわよ」
「順位を付けるものでもないわ」

 気を使っているから順位を付けられないお姉さまに、バニラ様は不服と言わんばかり。片やダージリンは、最初からアッサムのだけが美味しいと言って、アッサムの自分の分のケーキも欲しいとねだるものだから、結果的にアッサムはバニラ様のケーキを2つ食べることになってしまった。ダージリンはアッサムのケーキを大事に持って帰るそうだ。そうやって喜びを表現してくれることはとてもうれしい。きっと取っておいて、後のお茶の時間に食べるつもりなのだろう。


「アッサム、バニラの愛が重いわね」
「えぇ……まったくですわ」

 美味しいシフォンケーキ。2つ分の重たい愛を、胃の中へと流し込む。
 今度は、アッサムが胃もたれで寝込んでしまわないだろうか。


「はい、お茶受け」
「………朝、全部切って配ったんじゃなかったの?」
「あらやだ、見ていなかったの?ホールの半分は手を付けずに箱に戻したのよ」
「………半分?」
「そうよ、半分」


 ランチの後、暇を持て余してセックスをして少し眠った後、バニラがお茶を淹れてと言うので、バニラティーを淹れた。

 差し出されたお皿の上には、見たことのあるシフォンケーキが乗っている。

「その半分はどこにあるの?」
「何を寝ぼけているの?この部屋にあるから、こうやって出してきたのよ」
「バニラの分は?」
「いらないわ。整備科に貰った、『ホワイトローズ』のヴァレンタイン限定チョコがあるから」
 
 そっちがいい、なんて言えるはずもない。間違いなく、アールグレイ1人でシフォンケーキの残った半分を食べさせられるに違いない。このケーキ分があと、少なくとも4つはあることになる。

「何、嫌な顔して」
「………嫌じゃないわよ」
「あらやだ、嬉しいの?」
「いえ、私も後輩から貰ったチョコを食べないと」
「あなたの分は、手を付けずに、そのまま横浜の教会へ直行でしょう?」
「………そうね」
 2つ3つならともかく、数えるのが面倒な程のプレゼントをもらうので、送り主のリストを作ってもらい、現物は教会を通して児童施設などに届けられることになっている。手作り禁止はそのためだ。賞味期限の短いものは、ひっそりと情報処理部が始末するそうだ。みんな、そのことはわかっていて、それでもリストに名前が挙がるのなら、と、せっせとプレゼントをくれる。アールグレイは送り主に手書きの礼状を書いて、それをコピーして、サインだけは1枚1枚書き入れて、送るのだ。バニラもオレンジペコも、そうやってきた。ルクリリお姉さまの時は、1人で大きな箱を5つ分程集めてしまい、礼状が面倒になったと言う理由を作って握手会なるものを開催して、学内の小さな礼拝堂に行列ができてしまった。


「あーん、ってして欲しい?」
「いえ、いらないわ」
 朝に食べたから、味は覚えている。美味しいと思ったが、一日にケーキを3つも食べたいかと言われたら、3日に1度くらいでも多いと感じるくらいだ。

「バニラ」
「何?」
「あなた去年、私に何か、ヴァレンタインに作ってくれたかしら?」
「作ってないわ」
「どうして、今年は作ろうと思ったの?」

 1年生の時も2年生の時も、ファンから沢山のプレゼントをもらって困っていた記憶はあるが、バニラからはチョコもケーキももらったことなどなかった。

「………アールグレイ、本気で聞いてる?」

 にっこりほほ笑むバニラの眉間が怒りを表現しているのは、何となくわかる。
 聞いてはいけないことだったに違いない。

「ごめんなさい。そうね、アッサムに対抗心を燃やしていたんだったわね」

 アッサムのあのケーキは、とても美味しかった。きっと、ケーキを作るアッサムをからかって遊びたいだけだったに違いない。包丁を触るのも嫌なバニラが、積極的にケーキを作るとは思えないのだ。


「アールグレイって、どこまでも馬鹿ね」
 

 満面の笑みに薄っすら見える青筋のようなもの。勢いをよくふり落とされた右手が頬にぶつけられて、どうやらそうではないらしい、と言うことだけはわかった。

 でもたぶん、正解も教えてもらえないだろう。
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Date:2017/02/20
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