【緋彩の瞳】 だって、恋人でしょ? END

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

だって、恋人でしょ? END

「え?ここで食べますの?」
「当然よ。2人きりのタイミングを待っていたの。夕食の後だとお腹がいっぱいだもの。今がいいわ」
 放課後、書類仕事を片付けた後、隊長室でお茶をしましょうと用意をしていると、ダージリンがイソイソとアッサムのケーキを冷蔵庫から出してきた。子供が大事なものを隠している宝箱を取り出しているみたいだ。とても嬉しそうだし、無邪気だから、それはそれで、アッサムもゆっくり見ていたかった。アッサムは一口も食べていないけれど。ダージリンが美味しいと言うのならば、きっと本当に美味しいのだろう。

「紅茶はどうされます?」
「ミルクティーがいいわ」
「では、アッサムで」
「そうね」

 箱からお皿に乗せて、フォークを添えて。キラキラした目。アッサムのものを奪ったケーキ。紅茶を蒸らす時間も今か今かと言わんばかり。
「どうぞ」
「ありがとう、アッサム」
 早速フォークを手にして、アッサムが食べるはずだったケーキを一口。
「やっぱり美味しいわ、アッサム」
「そうですか」
「とても美味しいわ」
「それはよかったです」



 …
 ……
 ………


「あの、ダージリン」
「何?」
「……それで?」
「それで?」

 まぁ、わかってはいたけれど。アッサムの手元には紅茶しかない。半分くださいとまでは思わないが、今日はヴァレンタインなのだ。ダージリンはまさか、本当にアッサムには何一つ用意をされていないのだろうか。

 いえ、もう、この様子だと絶対に用意されていない感じだ。
 クリスマスの時は、交換をしましょうと最初から約束をしていたが、今回は何も言っていなかった。でも、アッサムは昨日、ダージリンにケーキを作って渡すと言うことは伝えていたはず。それを聞いてダージリンは……。

 まぁ、ダージリンがそんな気を利かせる人ではないと、わかっていたけれど。


「どうしたの、アッサム」
「………何でもありませんわ」
「不服な顔ね。美味しいわよ?」
「えぇ、とても美味しそうに食べていただいているので」
「美味しいもの」
「よかったですわね」

 アッサムが何かに不服と言うことは、ダージリンにも伝わったようだけれど、どうにもその理由はわからないらしい。美味しそうに食べている顔は見ておきたいので、取りあえず紅茶を飲みながら、ダージリンが食べ終わるのをじっと待った。アッサムの手元にはお茶受けがないことなんて、当然、ダージリンは気づく素振りもないようだ。



「ダージリン」
「……なぁに、アッサム」
「美味しかったみたいで、よかったです」
「そうね。とても美味しかったわ。オレンジペコ様のレシピ?」
「レシピだけはそうですが、あのお方、バニラ様に付きっ切りでしたわ」
「そう。アッサムがとても時間をかけたことが、伝わってきたわ」
「えぇ」

 流石にダージリンは、アッサムが何かに対して怒っている、と言うことには気づいている感じ。瞳を左右にさせ始めたが、それを誤魔化すようにティーカップで顔を覆っている。 

 もう空っぽのくせに。


「ダージリン」
「……なぁに、アッサム」
「ダージリンからは、何ももらえませんの?」


 …
 ……
 ………




「…………あっ」


 長い沈黙の後、合点がいったらしい。カタカタとカップを鳴らしてソーサーに置く姿は、さっきの美味しそうに食べていたダージリンと同一人物ではない。


「そうですか。何もないんですね」
「だって、アッサムが作ってくれると言うものだから、嬉しくてそのことばかりで頭がいっぱいだったのよ」
「………そうですね。いえ、別に期待なんてしていませんわ」

 ソワソワ楽しみにしていて、もらうことだけに頭がいっぱいと言うのは、本当にダージリンらしいといえば、らしい。この人は、イソイソと買いにでかける人ではないのだ。誕生日の時も、欲しいものを先に教えてと言うし、食べたいものもリクエストをされるし。たぶん、色々と上手ではない。そこのところ、ちょっとお姉さまに似ている。お姉さまもそう言う部分が凄く疎いのだ。乙女心、みたいなのが欠けている。ついでに、乙女心をわかろうとしないところも。ダージリンもお姉さまも、同じ性別なのだけれど。


「では、そうね……お礼にどこかに食べに行きましょう。アッサムの好きなものを」
「結構ですわ。今日は3食とも食堂に来るようにとオレンジペコ様に言われています」

 プレゼントを持ってくる生徒がいるため、手渡し禁止でも、幹部席に座っているようにと言うのが、オレンジペコ様からの命令だ。朝も昼も、ダージリンへのプレゼントは箱に入っていた。きっと、夕食の時にも持ってくる生徒はいるだろう。

「では、明日にでも」
「明日はもうヴァレンタインじゃありません」
「じゃぁ、今から何か、あなたの欲しいものを買いに行きましょう」
「もう、そろそろ暗くなるし、欲しいものなんてありませんわ」

 多大な期待をしない方が、これからのためだ。ダージリンは媚を売るように隣に座りなおして、アッサムに抱き付いて機嫌を取ろうとしてくる。

「アッサム、機嫌を治してちょうだい」
「考えておきますわ」
「それはいつまでなの?あと5分?それとも10分はかかるの?」

 どちらかと言うと、身体にしがみ付いてきていることの方が、鬱陶しくて苛立つ気もしないではない。こういう人なのだ。惚れたのはアッサム。でも、ダージリンだってアッサムのことを好き好きって言うのなら、チョコ1粒でも用意すればいいのに。アッサムは作ると言っていたのだから、どうしてもらうだけしか気を回せないのだろうか。


 どうしてもこうしても、ダージリンとはそう言う人なのだ。
 
 

「離れてください、ダージリン」
「機嫌を治してちょうだい」
「わかりましたので、離れてください」
「嫌よ、機嫌が治っていないもの」
「………はいはい、もういいですから」


 まとめあげている三つ編みを撫でて差し上げると、やっと腕の力が抜けた。

「許してくれるの、アッサム?」
「………まぁ、せっかくケーキを作って渡したのに、嫌な気分で一日を終えたくありませんもの」
「そうね。そうよね、流石アッサムだわ。そう言う所が好きよ」

 隊長室なのに、キスしてくるものだから。

「調子に乗らないでください!」


 “ごめんなさい”を言わないダージリンの頬を、思い切り叩いておいた。


「…………何があったの?」

 食堂に行くと、いつもと空気が違った。アッサムとバニラがぴったりと椅子をくっつけて座り、おいしそうに食事をしていて、意図的にアールグレイとダージリンが隔離されている。明らかに何かをしでかしたのは、アールグレイとダージリンだろう。ムスッとした表情のダージリンの左頬には、張り手の痕。気のせいか、アールグレイの左頬にも、似たような腫れがある。

「別に」
「何でもありませんわ」

 オレンジペコは和食を選んでいたので、アッサムに日本茶をリクエストして、いつもはアールグレイが座る場所、つまり二分されているセンターに座った。

「どうぞ、オレンジペコ様」
「ありがとう、アッサム」

 陶器のお茶椀を受け取り、頂きます、と手を合わせる。2組のカップルに挟まれているけれど、片や犯罪者のような顔。そして、制裁を加えた方はなんだかとても清々しく、妙な団結があるようだ。

「アッサム、明日はフレンチに連れて行ってあげる」
「本当ですか、バニラ様」
「えぇ。予約を入れておくわ。この学生艦の中で一番高いお店よ」
「嬉しいですわ、バニラ様」

 聞き耳を立てているダージリンとアールグレイは、互いに1秒だけ見つめ合ったけれど、2人に対抗して何かの約束事をするなんて、互いに避けたい相手だと思い当たったらしく、背中を見せ合うように、そっぽ向いた。そしてダージリンがオレンジペコを見つけたと言わんばかりに、満面の笑顔を振りまいてくる。

「オレンジペコ様」
「嫌よ」
「何もまだ、言っておりませんわ」
「明日は忙しいの」
「アッサムにだけ時間を割いてばかりです。私とも遊んでくださいませんこと?」
「あなた、コーヒーは嫌いでしょう?ケーキだって作れないし」
「善処しますわ」
「絶対に無理よ」


 ふくれっ面のダージリンは、同じように不服を顔に付けたままのアールグレイを睨み付けている。昨日、恋人のためにと一生懸命ケーキを作っていたあちら側は、肝心のヴァレンタインの夜に、一体どうしてしまったのだろう。と言うか、多分、ダージリンとアールグレイは怒られている理由もわかっていないに違いない。

 この理不尽を張り付けている顔が、余計に腹立たしいのだろう。


 きっと、くらだないことで喧嘩をしたんだろうなと思う。
 たぶん、バニラとアッサムが一方的に鈍感な相手に腹を立てて、頬を叩いたのだろう。


 何があったのかは知らないけれど、せっかく美味しいケーキを作っていたのだから、一日機嫌よく過ごせばいいものを。


「もう、ヴァレンタインなんてなくなればいいのに」

 オレンジペコが呟くと、同感と言わんばかりに大きく頷いたダージリンとアールグレイ。

 その余計な動作を、殺意ある目で睨んでいるアッサムとバニラ。


 鈍いにも程があるでしょう。


 食事の後、アッサムとバニラが部屋に突撃して来て、ずっとずっと愚痴を聞かされ続けた。もう、正直、ただの惚気にしか聞こえない。ゆっくり本を読もうと思ったのに、本当にうるさい2人だ。何だったら、リリーから送り付けてきたチョコに埋もれてポーズを取っている写真を見せて、これよりずっとマシだと説教してやりたいくらい。最低だの配慮がないだの、気持ちをわかろうとしない、だの。

 2人の隊長のもう1つ上の元隊長の方が、ずっと酷いのだ。………言えないけれど。

 散々、鬱憤を晴らした2人が手を繋いでオレンジペコの部屋を後にしたのは、日付が変わる少し前。

「…………バニラとアッサムがフレンチを食べている間、あの2人の相手は誰がするのよ」

 こっちは仲良く手を繋げる関係でも、あっちはだからと言ってタッグを組んだりしない2人だ。いい加減、卒業を控えたこの時期なのだから、ダージリンもアッサムも3年生に甘えないで自分たちで何とかすればいいのに。


 とはいえ、携帯電話にある着信履歴を眺めながら、仕方なくダージリンの頼みを聞き入れてあげることにした。これが最後なんだから、と。


 たぶん、これが最後なんだからって、あと何度かは使う気がする。



関連記事

*    *    *

Information

Date:2017/02/20
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/862-ce2c6fa8
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)