【緋彩の瞳】 肩を組んで笑お ①

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

肩を組んで笑お ①

「やっぱり、難しかったね」
「うん、脳みそに詰め込んだもの全部使い切った感じ」

 憧れの聖グロリアーナ女学院。
 
 学校説明会のために来て以来の聖グロ学生艦。あの時は、いろんな中学の戦車道の人たちが、紅茶の園を背景に写真を撮ったり、ティーネームを持つお姉さまの姿を探しては、イソイソしていた。解放されてある戦車倉庫を眺めて、絶対にこの学校に入らないといけないんだと、そう思ったものだ。

「模擬試験はいつもC判定だったものね」
「もう、記念試験みたいなもんだよ」
「B判定の私でも、倍率のことを考えると厳しいって言われてるのに、よく想い出づくりのために来たわね」
「まぁ、一応はプラウダの2次試験も残ってるし。いざとなればあっちに行く」
「あそこだって難しいのに」

 受験のために必死に勉強をした冬。戦車には全く乗らなかった。学校から帰ったら、6時間くらいはみっちり勉強をして今日を迎えていた。どんなことがあっても、聖グロに入りたいと思っていた。

 隊長であるダージリン様こと高森穂菜美様は、中学東日本チームをまとめたことがある。1年生の時、彩華(あやか)もメンバーに選ばれたのに、名前も顔も覚えてもらえなかった。その他大勢の1人、さらには補欠。近づくことさえできず。あまりにも後光眩しくて、ファンが多すぎて。いろんな学校から無試験での引き抜きの話があったらしいけれど、すべてを蹴って、正規ルートで聖グロに入学されたそうだ。だから、追いかけなければならなかったのだ。追いかけて、傍で多くを学びたいと。自分に足りないものを、ダージリン様はたくさん持っておられるはずだから。


「あっ!見て、あそこにアッサム様とダージリン様がおられるわ!」
「え?どこ?」

 ずっと同じチームにいた友達は、小学校の頃から聖グロに憧れて、ティーネームを授かり、チャーチルに乗るのが夢だといつも言っていた。聖グロのお姉さまたちのファンで、よくわからない何代も前のお姉さまたちのことも詳しくて、夏の大会や練習試合などがあれば、遠征をしてでも見に行っていた。

「あーぁ、行ってしまわれたわ。残念」
「………姿、見えなかった」
「アッサム様は黒のリボンよりも、前の赤いリボンの方が絶対にいいわ。お近づきになれたら、プレゼントして差し上げたい」
「………へぇ。はぁ、まぁ、いいんじゃない?」
 そう言えば、確かに赤いリボンだったような。学校も違ったし、何度か見たことある程度の薄い記憶だけど。フランス人形みたいな人と言うことは覚えている。

 憧れのダージリン様に近づきたい。聖グロのタンクジャケットを着てみたい。彼女はいつも、キラキラした瞳で熱く語っていた。

 同じ憧れでも何かが違う気はするけれど、それでもお互いに聖グロに入りたいという想いは同じ。共に励まし合い、共に目指していた場所だった。


「あら?……彩華ちゃん?」


 大洗女子学園を助けるために、急遽北海道に向かった学生艦。いつのまにか夏休みも終わっていて、休みらしい休みを過ごした記憶もなかった。なんて思いながらも、大学選抜と戦うなんていう面白い経験をさせてもらって、いい自慢になったものだ。
北海道のお土産を何も買えないことが残念だったけれど、そこは流石の聖グロ情報処理部と栄養学部。試合と無関係の学部の生徒は、空いた時間にじゃんじゃんと名産品を買い漁り、船に乗せたらしい。

 ということで、今のところ、聖グロの学生食堂は連日、海の幸で満ちている。満ち溢れすぎるほど。

徹夜付けで9月初めの学年テストを乗り切った後の、土曜日。
聖グロの学生艦は横浜に戻っていた。



「あぁ、久しぶり」


 親と電話をするときくらいしか自分の名前を言わないし、言われない。すっかりティーネームが身体に染みわたっていて、他校への自己紹介もずっと“ルクリリ”で通している。それでも、長く染みついた自分の本名なのだから、呼ばれたら立ち止まるし、その人の顔を見てしまうものだ。


「久しぶり。聖グロの制服ってことは、本当に生徒になっていたのね」
「うん、まぁね」


 中学時代まで同じ学校で、戦車道チームでも一緒だった子。満面の笑みで手を振って近づいてくる。いつのまにか疎遠になり、いつのまにか顔も声も忘れてしまった子。ルクリリは片手をあげて手を振って見せた。流石に、じゃぁね、と手を振って別れる訳にもいかない。半年ぶりに会うのだから。


「聖グロの制服、やっぱり彩華ちゃんには似合わないね」
「え~?そうかな?」
「全然、似合わない。ちゃんと上品な言葉を使えているの?」
「ははは、……さぁ、どうだろうね」


 海鮮ものに飽きた胃袋を満たすためにお肉を食べに行こうって、戦車道の仲間たちと鼻息荒くして歩いていたものだから、ルクリリのすぐ後ろからクスクス笑う声が漏れたのは仕方がない。
「ルクリリに上品なんて、おへそで紅茶がなんとか…ですわ!」
「ローズヒップ、似たり寄ったりのあなたが言わないで」
「仲間を馬鹿にしないの」
 指をさしてゲラゲラ笑うのは、少なくとも上品のレベルではルクリリよりも低いに違いないはずのローズヒップだ。まぁ、言われるだろうと思っていたけれど、空気って言うものを読めないのだ。バニラとクランベリーはたしなめてくれるけれど、どうせたしなめるなら、似たり寄ったりなんて、言わなくてもいいのに。


「彩華ちゃん、良ければどこかカフェにでも行かない?」
「あ、いや。今からはちょっと」

 彼女の名前は美咲ちゃん。小学校、中学校、ずっと一緒だった。高校受験が終わってからは、連絡を取っていなかったのだ。積もる話があるような、ないような。

「ルクリリのお友達ですか?」
 ペコが袖を少し引っ張って、とてもよそ行きの笑顔で聞いてきた。外ではダージリン様と行動することも多いから、なんて言うか、ペコの笑顔のオンオフはわかりやすいのだ。仲間といる時と違うのは、それなりに、顔を知られていることがあるからだろう。
「うん、中学時代の」
「折角ですから、私たちを気にせず行ったらどうですか?」

 カフェのランチなんかよりも、お肉が食べたいのに。何と迷惑な申し出なのだろうか。ペコは普通のことを言っているのだろうけれど、ルクリリにはお肉の方が大事なのだ。今更、久しぶりに会う『過去に仲の良かった友達』と、語り合いたいことなんてないのに。

「あなたはもしかして、オレンジペコ様?」
「……あ、はい。そうです」
「ノーブルシスターズの1人でしょう?」
「はい」
「有名よね、オレンジペコ様って言う名前」
「いえいえ、そんな。私なんてまだまだ」

 顔の前で両手を振って謙遜を見せているペコは、わかりやすく照れている。横浜港を母校としている学生艦の中でも、聖グロはやっぱり特別。戦車道の全国大会出場校の中でも四強と言われて、大会が始まれば、横浜の住民は巨大スクリーンに釘づけだ。隊長を始め、ティーネームを持つ生徒は顔も名前も有名人。ルクリリも小さい頃から青い制服、赤いタンクスーツに憧れ、小学校も中学校も、関東で一番と言われている戦車道チームに所属して、受験のための猛勉強をしていた。もちろん、ペコだって努力をしてきたから、こんな風に有名になったのだ。

「よかったら、みんなでカフェに行きませんか?」
 美咲ちゃんの後ろには、戦車道をしていなかった同じ中学の人たち。今更ながらに気づいたのだけれど、横浜港を母校としている学校の制服。でも、そこに戦車道はない。

 ……
 ………

 今、どうしているのかと聞いても、無駄なことなのだと思う。だったらなおさら、話すことなんてないような気がして、ルクリリは小さくつばを飲み込んだ。予定通り、美味しいものを食べに行った方がいいって。

「私たちは構いませんよ」
「他校との交流はとてもいいことですし」

 数秒の沈黙は、ペコとバニラを少し誤解させてしまった。気を使っているのは仲間にではない。“仲間だった友達”に対してだ。

 断りたい事情をペコ達に丁寧にする余裕もなく、満面の笑みの他校の生徒たちを拒絶することもできず、流れに身を任せてぞろぞろとカフェに向かった。こういう時こそ、ローズヒップがお肉お肉と騒ぎ立ててくれたらいいものの、ニコニコしながら付いてくるんだから。役に立たない奴だ。


「……ニルギリたちどうしたんです?」
「どうしたって、ランチを食べているだけよ。ペコたちこそ……合コンでもするの?」

 店員があちらへと手のひらを向けているのは、テラス席だった。何度か来たことのあるカフェ。ランチは美味しいけれど、まだまだ暑い時期にテラスはちょっとキツイ。店内を抜けるべくゾロゾロと歩いていると、見知った制服の子たちが、クーラーで涼みながら手を振っている。ペコは手を振り返した。

「ううん。ルクリリの中学時代のお友達だそうで。ばったり会ったから、せっかくだしカフェに入ろうということになりました」
「………あれ?美咲ちゃん?」
「え?あ、そっか。ニルギリはルクリリと同じ中学出身でしたね」
 ニルギリと一緒にランチを取っているルフナも、同じ学校の出身だ。席数は決まっているから、ニルギリたちと替わってあげた方がいいのだろうか。とはいっても、もうランチを食べ始めている2人と替わるのもおかしい。
「えぇ。私たちのことは気にしないで」
「挨拶しなくてもいいんですか?」
「うん、いいわ。…………色々あるから」
「そうですか?」
 ニルギリはちょっとだけ、困った顔で笑っている。ルフナも眉をひそめていた。あの美咲さんと言う人と、何かあったのだろうか。


「お肉、お肉、お肉……」
 念仏を唱えるようにメニューを眺めているローズヒップは、一番高いランチセットを指さして、これだ!と目をキラキラさせた。みんなでお肉を食べようって決めていたから、最初からそれなりにちょっと高めを想定していた。お肉専門店ではないけれど、サーロインのステーキセットがメニューに書かれてあって、当然、聖グロの生徒は皆、それを注文する。

「意外。聖グロの生徒って、サンドイッチと紅茶を頼むんじゃないの?」
「いや、ちょっと学校の食堂が毎日海鮮物続きで、お肉を食べようっていう目的で横浜に出てきていたからね」
 ルクリリは美咲さんにそう伝えて、ステーキを待ちわびる仲間たちの愁いを説明してくれた。聖グロはそこまで毎日、サンドイッチとスコーンにまみれてはいないのだ。紅茶は毎日飲むけれど。
「で、一番高いサーロインを頼むんだ。流石、お嬢様学校ね」
「仕方ないよ、だってお肉はこれしかないんだし」

 細くてチクリと刺す棘みたいなものを感じたのは気のせいかな、と思う。ローズヒップはルンルンと膝にナプキンを掛けて、ステーキへの想いを厨房に飛ばしている感じ。子供みたいに。他校の生徒と一緒なんて、きっと大したことと思っていないのだろう。まぁ、正式な交流会ということでもないから、別に問題もない。幸いなことに同じ歳なのだから、そのあたりの気遣いだってしなくてもいい。何というか、普通でいいのだ。ルクリリの友達として、恥をかかなければ。


「お肉ですわ~!」
 両手をあげて喜ぶローズヒップの前に並んだ、サーロインステーキ。聖グロの生徒の前に荒々しい匂いが充満して、向こう側は女子高生らしい、パスタやオムライスなどのセットが並ぶ。敬虔なクリスチャンのクランベリーが手を合わせて、心の中でお祈りを始めたので、ペコも、もちろんローズヒップ達も皆、同じように手を合わせて、神様に感謝の言葉を伝えた。御座なりにする生徒もいるし、キチンとする生徒もいるし、外ではしない生徒もいるし。聖グロの生徒の多くはクリスチャンだけど、信仰の自由は認められている。だけど、必須科目に宗教の授業はある。当たり前のように聖歌は空で歌える。

「うわ、マジでそう言うことをするんだ」
「何だかこっちが罪深い人間みたいね」

 一言、お祈りをさせて欲しいと告げればよかったなと思ったのは、目を開けて嫌そうな表情の美咲さんの顔が見えた後だった。

「ごめん、もう身体に沁みついちゃっていて」
 普段、お祈りなんてしないルクリリがさらっと嘘を吐く。それは、大切な仲間を想う嘘だ。
「へぇ。聖グロの生徒になった自慢?」
「ははは。まぁ、そんな感じ」
 一番端っこに座っているクランベリーが眉をひそめてペコを見つめてくるけれど、何だかこう、何と言うか………ちくりと刺されたような棘はたぶん、ルクリリにだけ向けられている。気にする必要はない。

「そっか、すっかりお嬢様ぶってるんだね」
「今のところ、頑張っているって感じかな。上級生にいつも怒られてばかりだよ」

 徹底的にフォークとナイフの使い方を、アッサム様にしごかれていたローズヒップ。今日みたいな日のための訓練だったに違いない。それでも、本当に美味しそうにパクパクと食べる息遣いが、ルクリリの隣から聞こえてくる。前に並んでいる女の子たちは、各々がパスタやオムライスを美味しそうに食べていた。パスタなんて、聖グロの学食には出ない。欲しいという要望は意外と少なかったりする。パン食に飽きたからと言って、同じような原材料のものを増やしたくはないからだ。

 食事中に、ルクリリのことを“彩華ちゃん”と呼ぶ美咲さんと、そのお友達は、思い出話に花を咲かせていて、中学時代の先生のこととか、別の学校に行った子の話をしていた。ルクリリは相槌を打つばかりだったけれど、周りは意味がわからないし付いていけない。とはいえ、彼女はそう言う話をしたくてルクリリに声を掛けたのだろうから、話題を変える必要も見当たらなかった。幸い、ローズヒップはお肉に夢中で、バニラもクランベリーも物わかりの良い子。何より無意味に話題を振るタイプじゃない。美咲さんと言う人が、やたらルクリリのやんちゃな中学時代をペコたちに暴露したがっているような気がしたけれど、何と言うか、まぁ、男子生徒と殴り合いのけんかをしたとか、食事の最中に牛乳を吹いたとか、その程度なんてルクリリらしいな、としか思えなかった。だから、バニラたちもニコニコしてその、残念な武勇伝を聞いているだけだ。

 ダージリン様だったら、むしろ手を叩いてお喜びになるだろう。あのお方もアッサム様も、ルクリリのそう言うやんちゃな部分も含めて、溺愛をされているから。
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Date:2017/04/03
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