【緋彩の瞳】 肩を組んで笑お ②

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

肩を組んで笑お ②

「ねぇ、こういうお店の紅茶って美味しいの?」
「出されたものは、何でも美味しくいただくよ」

 別に忘れたい過去でも消したい過去でも何でもないことだから、ルクリリがどんな悪ガキだったのかをペコ達に暴露されたって、痛くもかゆくもない。聖グロに入学する生徒は確かにお嬢様ばかり。有名な会社の社長の孫だとか、医者や弁護士の娘だとか。とにかくそう言う人たちの集まりだ。だけど、聖グロは決して御家柄で生徒を区別してなどいない。試験の点数の順番以外は何も見られてなどいないのだ。ただ、卒業後もOG会に入り、後輩たちへの寄付をしていくことが暗黙の了解で、金額もお年玉で何とかなるようなものでもない。
 戦車道は乙女のたしなみと言われて、聖グロは昔から戦車道の名門校。大事な一人娘に戦車道をさせたい世の金持ち父さんが、こぞって娘を聖グロに送り込み続けてきたのだ。いつの間にかそれが、お嬢様しか通えない、と言われるようになってしまったのだ。たぶん、だけど。あとは結婚相手として喜ばれる、とか。今のところ、本当にそうなのかはわからない。


「へぇ、そうなんだ。ほら、聖グロの生徒って、イチイチ紅茶の味に文句言いそうでしょう?」
 そう言われて、アッサム様が思い浮かんでしまった。たぶん、みんな、アッサム様の顔が浮かんだに決まっている。あのお方に美味しいと言わせて、初めて聖グロの戦車道生徒として認められると、シナモン様から教わった。もう9月だと言うのに、まだ、落第点なのはローズヒップだけ。
「私の周りには、そう言う生徒はいないかな。自分で淹れたものがマズいと思うことはあるよ」
「ルクリリは、おしゃべりに夢中で時間を計っていないことがありますね」
 クスクス笑っているペコの笑い声は偽物だ。あまりにもルクリリのことを下げようとしている美咲ちゃんの、その手にあえて乗ったのだろう。そうしておいた方が、美咲ちゃんの機嫌は良くなるのかも知れない、と。

「へぇ。っていうか、ルクリリっていうのはティーネームなんでしょ?」
「そうだよ」
 席に着いたときに、全員を紹介した。偶然、ここにいるのはみんなティーネームを授かっている。もう一つ偶然で言えば、成績上位5人だ。
「聖グロの戦車道って、全員がティーネームで呼び合っているわけじゃないでしょ?」
「いや、そんなに茶葉の種類もないよ。2,3年だっているし、同じ名前は使えないし」
「勝手に名乗るとか?」
「そんなまさか。ダージリン様とアッサム様に選ばれた人だけ、かな」

 ダージリン様とアッサム様。この名前を口にしたとたん、美咲ちゃんの両隣にいる2人の子が笑い出した。
「ダメよ、笑っちゃ。そりゃまぁ、変なニックネームだけど」
「ごめんなさい。流石に知っているお茶の名前に“様”を付けるなんて、無理!」
 その“無理”は、真面目な顔で聞くに堪えられない、と言う意味の無理なんだろう。戦車道経験者にとっては、聖グロのティーネームなんて普通のことで、ルクリリは小学生の頃から当たり前のように受け入れていた。美咲ちゃんも、聖グロのティーネームに憧れていたはず。でも、関係のない人には笑いのネタになる物なのだ。それは、致し方のないこと。

「な、何がおかしいんですの?!」
「ローズヒップ、声を荒げるな」
 小さな拳を作って抗議するローズヒップのその腕を押さえつけて、ルクリリは笑って見せた。これは、そんなに馬鹿にしたことじゃないかもしれない。自分たちがただ、馴れきっているだけなのだ。

 世間は、戦車道と無縁の世界の人の間では、確かにおかしなことだって。そうやって受け入れるほうがいい。

「ねぇ、そのローズヒップっていうのもティーネームなのよね?」
「そうですわ。アッサム様が付けてくださった、クルセイダー部隊の名誉あるティーネームですわ」
 自分に話題を振られて、慌てて胸を張って誇り高きティーネームを披露する姿。ローズヒップは夏の大会以降、クルセイダー部隊の部隊長をしている。
「あなた、北海道の大学選抜の試合に出ていたわね」
「はい!あら、よくご存じで!!」
「壁に突撃していたクルセイダーの人」
「そうですわ!チャーフィーを撃破しましたわ!」
「試合終了の時に大股開いて座っていたのがモニターに映って、横浜中のみんなが大笑いしていたわよ」

 それは、試合が終わった後に学生艦あてに、OG会のお姉さまがじゃんじゃん電話を鳴らしたから知っている。ダージリン様もアッサム様も、映した方が悪いのだ、なんて言い訳をして電話で言い返しておられた。当然ローズヒップもルクリリも正座させられたのだけど。なんせ、ルクリリが呟いた下品な言葉も、ちゃっかり音声で拾われていたらしいから。無線も放送されるなんて、聞かされていなかったのだ。放送する方が悪い。

「………でも、大学生相手に頑張ったわけだし。結構、みんなに喜んでもらえたかな。聖グロは3両で大学選抜を2両も撃破できたし、大洗女子も廃校撤回になったから」
 拳を作ったままの、そのローズヒップの腕を押さえつけ、何も言うなと足を蹴った。何だかんだ、あの戦いの影響は大きくて、カールと分厚い装甲のT28を撃破した高校の戦車道チームの学校は、きっと来年の受験倍率が跳ね上がるだろうと言われている。裏ですべて手を回したのはダージリン様だし、情報集めに走り回ったのはアッサム様だ。お2人が大洗女子学園を救ったといっても、決して過言ではない。
「彩華ちゃん、じゃなかった“ルクリリ様”も試合に出たのでしょう?」
「出たよ」
「聖グロは3両しか出なかったのに、どうして1年生を連れて行ったのかしら?」
 紅茶ではなく、アイスコーヒーをストローでかき混ぜながら、美咲ちゃんは鼻で笑っている。たぶん、言いたいことは次の質問に取っているのだろう。
「それは、ルクリリとローズヒップが、とても優秀な選手だからですわ」
「えぇ、そうね。それに、ダージリン様とアッサム様が凄く可愛がっていますし」
 どうして、と言う質問にどう答えようかと悩む仕草を見せるよりも早く、柔らかい声が両サイドからふわふわと舞った。両サイドの端っこに座っているバニラもクランベリーも、きっといつも通りに天使のような微笑みをしているに違いない。無垢で嫌味の一つも言えない、本当に聖グロに通うべくして通っている、みたいな子。聖グロの制服がとてもよく似合っている2人。

 美咲ちゃんが目指して、叶わなかった夢のような、そういう感じなんだろうな。

「え?彩華ちゃんみたいな野蛮な子が、3年生から可愛がられているの?」
「いやぁ………ははは。ほら、免疫がないんじゃないかな、こう、私みたいな野蛮なタイプ」
「試合に出ても、1両も撃破できなかったのに?野蛮が取り柄なんて、聖グロにとってマイナスのイメージしかない気がするわ。実際、下品な言葉が全国に放送されていたもの」

 大学選抜との試合で、マチルダⅡが撃破出来る車両なんてあるわけない。ダージリン様はわかったうえでルクリリを選んでくださったのだ。チャーチルの盾となり、大洗女子学園の隊長車の盾となり、守り抜き、役に立てと。

「でも、撃破するだけが戦いじゃないからね」
 どちらかと言うと、美咲ちゃんがそんなところまでちゃんと試合を観ていたことの方が意外だった。戦車道のない学生艦で生活をしていると言うことは、もう、戦車には乗っていないのだ。それでも、試合を観るほどに、そしてルクリリが出場して、さらに1両も撃破出来なかったことを覚えているほどに、夏休みの1日を費やして、試合を観ていたなんて。


「聖グロは、ここ最近弱くなったわね。今年の夏も、決勝には出られなかった」
「準決勝で黒森峰と当たったからね。あと一歩っていう所まで行ったんだけど」
 アッサム様の砲撃は、ティーガーⅠに当たった。だけど、跳ね返されたのだ。勝負は時の運。もっと近づいていれば。もっと、ルクリリたちマチルダⅡ部隊が残っていられたら。他校のように見るも無残な負け方ではなかった。勝てるかもしれない。毎年、黒森峰とはそんな戦いを続けてきた。
 泣きじゃくる隊員たちの嗚咽する声と、清々しい笑顔のダージリン様と、すべて割り切って、力いっぱい抱きしめてくださったアッサム様。ずっと忘れずに、鮮明に覚えている。当たり前だ、つい、1か月前のことなのだ。
 聖グロは2年連続で準決勝敗退だが、2年連続で黒森峰に負けたのだ。逆に、ここ数年は公式試合で黒森峰以外に負けてなどいない。四強の中でもっとも貧弱な戦車ばかりを揃えている聖グロであっても、戦術と練度で、ずっとその地位を維持してきた。重戦車を揃えても、1回戦で敗退している学校だってあるのだ。


「“ルクリリ様”が車長をやっているせいかしら?」
「ははは、うん、それはそうかもね」
「夏の試合にも出ていたの?」
「うん、全試合に出ていた。私は入学してから、他校との試合には全部出てるよ」
 1年生で全試合出場している生徒は、数人だけしかいない。2,3年生をサポートに回してでも、ダージリン様はずっと練習試合もすべて、ルクリリを育てるために、出場させてくださっている。

「あぁ……だから」

 だから?
 ルクリリがいてもいなくても、試合結果は同じだって、イチイチ言わなかった。彼女の聖グロへの憧れは、確かにルクリリ以上に強かった。聖グロに入れずに戦車道を辞めるほど、きっと辛いことだったのだろう。入学の可能性はC判定だって嘘を吐いて、美咲ちゃんに気を使っていたルクリリだけが受かってしまったのだ。合格発表の日以降、彼女の方から距離を取られていった。ルクリリもまた、どうすればいいのかわからないまま、中学を卒業して、それぞれの生活が始まった。連絡先は消していなかったはずだが、毎日の様にやり取りしていた頃が嘘のように、2人は赤の他人のようになった。
 ルクリリが悪いことをしたのだろう。彼女の夢を壊したつもりはないけれど、ルクリリがいなければ、もしかしたら、彼女は聖グロに入れたのかも知れない。そう思われているに違いない。

 だから、これくらい、言われても腹を立ててはいけない。
 聖グロの戦車道は、多くの人の夢であり、希望でもある。
 ティーネームを授かるには覚悟がいる。好かれるのと同じくらい、こうやって妬みをぶつけられることもある。特に、お嬢様らしくないルクリリならなおのこと。

 だけど、何を言われても受け入れられる。
 ルクリリの両サイドには仲間が、今のルクリリにとっての大切な仲間が座っているから。


 ローズヒップがルクリリの指を痛いくらい握りしめてきた。反論するとか、怒るとか、そう言うことをしろって言いたいのだろう。ムッとした表情で口を閉じているのは、ローズヒップが言い返すべきじゃないと、彼女なりにもわかっているから。でも、言わせておけばいい。少しでも、途切れた夢に苦しまされることが減るのなら。ルクリリの悪口なんて、言いたいように言わせておけばいいのだ。


「うーん。秋の大会では、もうちょっと良い成績を取れると思うよ」
 次の試合は、ルクリリがマチルダⅡ部隊長の指揮を執る。訓練ではチャーチルに乗ることもある。次期隊長になれと、夏の戦いの前から言われているのだ。厳しく、それでも本当に可愛がってもらっている。負けることも含めて、すべてが勉強なのだ。
「彩華ちゃんが試合に出るようでは、四強から零れ落ちるんじゃないの?大洗女子が優勝で、黒森峰にプラウダにサンダース。聖グロは準優勝しか経験がないし、サンダースみたいな物量もないし」
「うーん、四強も公式発表と言うわけでもないし、そういうのは別に気にしていないよ」
「重戦車を1両も持っていないのに?ダージリン様はOG会に嫌われているんじゃないの?」
 OG会の許可なく、戦車の購入ができないことを知っているあたり、流石だって思う。でも、重戦車がないから負けたなんて、言い訳をしたくないのだ。そんなのは逃げているだけ。
「今持っている戦車だけでも、戦う術はちゃんとあるよ」
「マチルダⅡばかりで何ができるのよ?鈍足のチャーチルの火力も大したことないし、当たっても跳ね返されてばかり」
「でも、ダージリン様もアッサム様も、本当に黒森峰との戦いでは素晴らしかったよ。私たちは、順位なんてどうだっていい。あのお2人と戦えたことが誇り。私が試合に出ていても出ていなくても、きっと変わらなかった」
 ダージリン様の判断力、統率力、アッサム様の情報収集能力は、素晴らしい。他校の隊長たちもそれを認めている。傍にいて、その凄さはよくわかる。
「準優勝すらできなかったのに?ダージリン様も大したことないのよ。結局は最も名誉あるティーネームを与えられたわりには、歴代で最も貧弱な結果しか残せなかったんだから。それもすべて彩……きゃっ!」

 彩華ちゃんのせいで、と続けるつもりだろうと奥歯をきつく噛んで耐えていた。

 でも、その言葉がルクリリに降って来なかった。
 代わりに、小さな悲鳴が聞こえてきた。

 静かに立ったペコ。
 手に持っていたグラスから弧を描いた水が、真っ直ぐに美咲ちゃんの顔に投げつけられたのだ。

「ダージリン様を侮辱することは、私が許しません」


 違う。


 美咲ちゃんが本当に侮辱したいのは、ルクリリだけだ。彼女はダージリン様のことが好きで、憧れていて、だから傍にいて可愛がられているルクリリが羨ましくて、妬ましいだけだ。
 羨ましいって、声に出せないだけなんだ。本当はルクリリの場所に自分がいたかったのにと、言えないだけだ。


「ペコ…………馬鹿。なんてことを」


 氷の混じった水を顔に掛けられた美咲ちゃんは、ペコを睨み付けている。ローズヒップの腕を抑えていたけれど、選択を誤ったようだ。まさか、じっとしていたペコがこんなことをするなんて、欠片も思っていなかった。

「ルクリリを侮辱することだって許しませんわ!!」
「やめろ、ローズヒップ!」
「どうしてですの?!どうしてじっと聞いているだけですの?!どうしてヘラヘラ笑っているんですの?!ダージリン様のことを馬鹿にするなんて、ルクリリの大事な人を馬鹿にするなんて!そんなのルクリリの友達でも何でもないですわ!」

 椅子を倒し立ち上がって抗議するローズヒップを、止められなかった。
 ペコもローズヒップも、聖グロを、ダージリン様を、大事な人たちの名誉をただ、守りたいだけなのだ。
 黙って聞き流せばいいだけなのに。彼女が許せないのは、“友達だった”ルクリリだけなのに。

「落ち着け、ローズヒップ。こんなところで揉め事を起こしたら、アッサム様に怒られる!」
「アッサム様だって、ダージリン様を馬鹿にした人と喧嘩したら、褒めてくださいますわ!」

 ここに来ることを、断ればよかった。
 後悔って言う無駄なことを想っても、もうどうすることもできない。

「聖グロって野蛮人ばかりなのね。だから彩華ちゃんでも合格できるのね」

 
 空のグラスを持ったまま、じっと美咲ちゃんを睨んでいるペコの横顔。こんなに怒りをあらわにしている顔なんて、みたことがない。いつも、喧嘩し合うルクリリ達を止める立場のペコが、こんなにも腹を立てている。

 何を、どうすればいいのだろう。

「1年生の分際でノーブルシスターズなんて呼ばれて、調子に乗って偉そうに」
 滴る水をハンカチで拭きながら、鼻で笑うルクリリのかつて友達だった人。一緒に聖グロを目指し、一緒のチームで戦い、仲がいいと思っていたけれど、それはきっとすべて、勘違いだったのだ。否、もうすべてが終わったことなのだ。

 ルクリリのことを妬ましいと思う。それだけじゃ飽き足らず、聖グロに入った生徒は、校章の入った青いセーターを着ている少女たちは、戦車道の生徒は、美咲ちゃんにとって妬みの対象なのだろうか。

「………私の友達を馬鹿にしないでよ」
 ルクリリが今友達と呼べる人は、大切な仲間は、ペコたちだ。
「はぁ?そんなことより、謝りなさいよ」
「謝れば、前言を撤回してくれるの?ダージリン様やペコを馬鹿にしたことを、謝ってくれるの?」

 一発殴りたい気持ちを殺して、我慢を自分に言い聞かせた。ここで声を荒げたら、退学処分になるに決まってる。
 ペコだって、最初に手を出したのだから、処分されるに違いない。

「頭を下げてから物を言えば?」

 見下したもののいい方でも、別に構わない。ルクリリは立って、90度頭を下げて見せた。左側の視界に入るおさげ。
 頭を下げても、きっと謝罪されることなんてないと分かっていても、それでも、下げるしか術がなかった。

 守らなければいけないのだ。仲間を。仲間の大事にしている人を。仲間の未来を。

「私、ずっと前からあなたのことが嫌いだったのよね、“ルクリリ様”」

 あんまり好きではないコーヒーの匂いが鼻についたのは、下げた頭にまるでシャワーを浴びたみたいに、冷たいコーヒーを掛けられたからだった。

「そう。別に好かれていたいなんて思ってなかったから、いいよ」
「そう言うことを嘘でも言う所が嫌い」
「私はダージリン様にもアッサム様にも凄く可愛がってもらっているし、ペコたちという大事な仲間がいる。聖グロの皆が私のことを好きでいてくれるから、私にはそれで十分だよ。美咲ちゃんとはお互いにもう関わり合うこともないし、嫌っていてくれてもいい。それに嫌いだからって何?嫌いなら、一緒にランチなんて取らなければよかったのに」

 コーヒーはルクリリの髪とセーターを濡らして、ポタポタと真っ白いテーブルクロスにシミを作っていく。

「ルクリリ!」

 ローズヒップが慌てて聖グロの校章の入ったハンカチで、ルクリリの髪や顔を拭いてくれた。お店の人に謝罪をして、クリーニング代を支払わないといけない。聖グロの生徒はここのお店を出禁になるだろう。横浜ではあっという間に噂も広がるに違いない。他学部の生徒になんて言われるか。整備科の仲良し仲間や、家政科の友達なんかが、怒鳴り込んでくるかもしれない。


「何てことしますの?!頭を下げている人に対してコーヒーをかけるなんて!」
「最初に水をぶっかけたのは、ノーブルシスターズの人でしょう?」
「だから、ルクリリが謝りましたわ!」
「かけた本人は謝る気配もないわよ」


 バニラがオロオロしながらローズヒップの袖を引っ張っている。ペコは立って、ずっと美咲ちゃんを睨み付けたままだ。嘘でも謝ったりしないだろう。それくらい、ダージリン様のことや、聖グロのことが大好きで、大切だから。

 同じように聖グロが大好きで、ダージリン様に憧れていた美咲ちゃんと、仲良くなれたかもしれないのに。


「水を掛けて悪かった。彼女の過ちは私の責任だから、私が謝ったのだから、許してあげて」
「はぁ?何なのそれ?謝るのなら、ノーブルシスターズさんでしょ?1年生の分際で、ダージリン様の傍をちょろちょろして。こんな野蛮な子がダージリン様の傍にいるなんて。なんでこんな人たちが聖グロにいるのかしらね!」

 まだまだ、我慢が足りないなって思うよりも早く、ルクリリの右手は動いていた。
 手元にあった、冷め始めた紅茶。
 持ち上げて、勢いよく腹立たしいその顔にかけてやった。
 良くて停学処分。最悪は退学だ。

 別に、何だかもう、どうでもよくなった。身体が動いてしまったのだ。仕方がない。
 同情はする。ルクリリのことを嫌いならそれでもいい。好きなだけ馬鹿にすればいい。


 でも、ペコもダージリン様も、ローズヒップも馬鹿にされる謂れは何もない。


「………バニラ、クランベリー。私は今から他校の生徒を殴るから、2人はダージリン様を呼び出しておいて」

 ローズヒップよりも勢いよく椅子を倒してテーブルを回りこむと、美咲ちゃんの胸ぐらを掴んで、無理やりに立たせた。

「何すんのよ?!」
「私が男子生徒と取っ組み合いのけんかをしているのを、ずっと見ていただろう?」
「聖グロの生徒が外で喧嘩?!」
「売られたものを買っただけだ」

 謝るとか謝らないとか、そんなことよりも、一発殴りたかった。

 テーブルも椅子も盛大に音を立てるし、驚いた子たちが慌てて立ち上がると、テーブルの上のグラスが音を立てて床に落ち、アイスコーヒーとガラスが散らばった。




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Date:2017/04/03
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