【緋彩の瞳】 肩を組んで笑お ③

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

肩を組んで笑お ③

「女の子たちがテラスで喧嘩してるわ!」




 アイスティを飲みながら、良く見えないテラスの席でルクリリたちはステーキを食べているのかしら、なんて思っていると、ニルギリの耳にわずかにガラスが割れる音が届いた。
 店員が慌ててフロアを駆け抜けて、テラスに向かって行く。他のお客さんたちがざわざわして、みんな同じ方向を眺めている。

「喧嘩?まさか、ローズヒップとルクリリはこんなところでやりあってるの?」
「まさか。馬鹿丸出しもいいところよ」
 ニルギリの問いかけに、ルフナもそんなまさかって小さく笑う。とはいえ、あの2人は、そんなまさかを現実にする人だから、ちょっと嫌な予感でもある。

「見に行ってくるわ」
 女の子たちと言うのが、聖グロの生徒とは限らないけれど、ルクリリたちが食事している相手は美咲ちゃんだ。
 ルクリリがほとんど満点に近い点数、成績2位で聖グロに合格した時、落ちるべき人が受かるなんて、と、ルクリリのことを陰でずっと罵倒していた。小学生の頃から、高校は聖グロに入りたいと言い続けていた美咲ちゃんが、男子生徒相手に喧嘩をするお嬢様とは程遠いルクリリに負けて、プライドを傷つけられ抉られ、あまりにも落ち込み過ぎて、戦車道を辞めたことは知っている。
 ルクリリと違って、確実に聖グロに入れるだろうと言われていたニルギリとルフナは、中学3年生になった頃から、彼女に敵視されて、あまり会話をしなくなった。
すっかりもう、過去のものとして、久しぶりに会ったルクリリと仲良くランチをしているのかと思っていたけれど。何か、言い争いでもしてしまったのだろうか。

「バニラ、クランベリー」
「ニルギリ!」
「え?やだ、やっぱりルクリリたちが喧嘩しているの?!」

 周りのお客さんたちが迷惑そうに立って、距離を開けている。店員があわあわしているその先に、美咲ちゃんの胸倉を掴んでいる青い制服の生徒。ルクリリだ。

「止めなさいよ、2人とも」
「止められなかったの。止めたくもなかったし……でも、ダージリン様を呼べって」
「えぇ?!」
 おっとりしている2人には、確かに喧嘩は似合わないけれど、羽交い絞めして止めるくらいはするべきだ。でもなぜだろうか。ローズヒップとペコが全く止める様子もない。

「私はダージリン様に電話するから」
「では、私はアッサム様に。ニルギリはシナモン様と、キャンディ様に連絡をして」
「いや、だから、先に止めてってば」
「ルクリリは、殴らないと気が済まないのよ」

 何か、取りあえず殴りたい理由ができたらしい。ざわざわしているテラスでは、他校の生徒にメンチ切っているローズヒップとペコの姿。声を張り上げて、仲間を侮辱するなと叫んでいるルクリリ。

 何となく、ルクリリが手を出した理由がわかったような気がして、ニルギリは携帯電話を取りに席に戻った。


 ダージリンとランチを取った後、別行動をしてそれぞれ実家に帰ることになっていた。ダージリンを迎えに来たハイヤーを見送り、アッサムは携帯電話のショップに入った。秋の新作がどんなものなのか、この目で確かめたい。実家からの迎えはもう少し時間がかかるから、その間の時間つぶしに、と。
ショップに入るとすぐにクランベリーから電話がかかって来て、日差しの中に飛び出した。問題が起きたので、大至急来てもらいたい、と。カフェの名前を告げられて、頭の中に浮かんだ地図は、アッサムがいる場所から少し離れていて、隣の駅だ。

「問題というのは、何?ローズヒップがまた迷子になったの?」
『いえ。似たような…と言うより、もっと悪いことです』
「もっと悪いの?」
『はい』
「ダージリン様には?」
『バニラが電話をしています。シナモン様、キャンディ様にも連絡を取りました』
「そんなに?」
『はい。とにかく、来ていただけませんか?』

 こういう助けてください、みたいな電話をクランベリーが掛けてくると言うのはどういうことだろう。ちょうど、アッサムを迎えに来たハイヤーに乗って、実家に帰れないかもしれないと親に電話をして行き先変更を伝えた。アッサムの携帯電話が鳴る。

「ダージリン」
『バニラから電話が来たわ』
「私もクランベリーから」
『状況を電話で上手く説明できないって言っているわ』
「そのようですわね。迷子よりも悪い状況、らしいです」
『あれ以上?まったく、アッサムの指導の賜物ね』

 どこの誰が問題を起こしたのか、具体的な名前を聞いていないけれど、おおよそあの3人の、とりわけ2人のどちらかだろう。あるいはどちらも、なのか。公衆の面前で喧嘩でも始めたのかも知れないが、そんなことで、シナモンやキャンディまで呼ぶだろうか。もしそうなら、むしろアッサムとダージリンには隠したいと思うはずだろう。責任者を呼ぶと言うことは、第3者に迷惑を掛けている、と言うことだ。あるいは、OGが絡んでいるか。

「どうしたの、グリーン?」
『アッサム様、そっちにも情報は行きましたか?』
「何の情報かしら?」
『ルクリリがカフェで他校の生徒を殴ったようです。うちの学部の1年生が街中で噂を聞いたらしくて、私に電話してきました』
「……………あの馬鹿」

 クランベリーの言う迷子よりも悪い状況というのは、確かなようだ。


ルクリリが美咲さんの胸倉を掴んで振り回し、一発頬を殴ったのを見て、何だかすっきりしている自分がいた。本当は、ペコがそれをするべきだったのだ。ダージリン様を、ルクリリを、聖グロのすべてを馬鹿にする言動を、じっと耐えるなんて出来なかった。水を掛けてしまったのだから、悪いのはペコだけだというのに、悪役をルクリリに押し付けてしまった。ルクリリが友達を殴るのを、止めたりなんてしてあげなかった。これで退学になるのならば、ペコも喜んで退学して、一緒に別の学校で戦車道を続ければいい。たとえこの揉め事を起こしたことで、ダージリン様に嫌われてしまったとしても、それでも、許せないものは許せなかった。

 ダージリン様もアッサム様も、血相を変えてルクリリを、ペコを、ローズヒップを怒るに違いない。お2人から殴られるかもしれない。


「ご迷惑をおかけしました。おそうじをしますので、道具を貸していただけますか?」

 外野だった美咲さんを囲んでいる生徒たちが、次々にルクリリを大声で罵倒しているけれど、宣言通り一発殴ったルクリリは、それ以上何も言わず、言われても無視を決め込んだように店員さんに頭を下げて、割れたグラスを拾い始めた。ペコもローズヒップも、引っ張られて歪んだテーブルクロスの上で倒れているグラスや、零れているコーヒーを黙って片づけ始める。

「何か言いなさいよ、こんなことして!あんたたち、絶対に退学してやるわ!」
「聖グロのOG会にいいつけてやるんだから。聖グロはOGの言いなりなんでしょ?!」

 バニラとクランベリー。そして店内でランチを取っていたニルギリとルフナが、借りたモップや布巾を手に来てくれた。
「ルクリリ、お姉さま方を呼んでいます」
「ありがとう、バニラ。ここの清掃をお願い。私はお店の責任者の人に謝ってくる」
「わかったわ」
 ルクリリは傍にいた店員さんに、店長さんに直接謝罪をしますと申し出て、一度テラスから姿を消した。きっと色々と覚悟の上で殴ったのだ。衝動に駆られて水を掛けたペコよりも、ずっと状況をわかっている。


「………退学になっても、私は構いませんわ」
「ローズヒップ」
「ルクリリが退学なら、私も辞めますわ」
「私もお供します」
 ガチャガチャと割れたガラスを集めて、塵取りで拾う。それを何度か繰り返し、テーブルの上を綺麗に片づけて、無事な食器類は全て下げてもらい、新しいテーブルクロスを広げ、何事もなかったようにセッティングする。その間も、殴られた美咲さんはペコやローズヒップに食って掛かって来ていたし、他の人たちも下品な言葉でののしって来ていたが、バニラたちも徹底的に無視をして、4人テーブルを2つくっつけていた場所は、元通りになった。


「美咲さん、これ以上大声を出すのは、他のお客様にご迷惑ですのでお店を出ましょう。そちらのお代は、こちらでお支払いさせていただきます」

 テラスに座っていたお客さんは、何組かお店を出て行った。その人たちのお会計は、たぶん、店長に謝りに行ったルクリリが支払うことを申し出ているだろう。
 
「良い子ぶって。殴ったくせに掃除?殴った方が悪いに決まっているでしょう?」
「はい。ですので、こちらが支払いをいたします。二度とルクリリの前に、私たちの大切な仲間の前に姿を見せないでくださいませ」

 視界の隅っこに、綺麗なブロンドの髪が見えた。聖グロの制服姿の人がテラスに近づいてくる。

「あんたが先に水を掛けた癖に!あんた、まだ謝ってないでしょう?!」

 殴られて頬を赤くしている美咲さんは、同じ目に合わせたいのか、ペコの肩をぐっと掴んで勢いをつけ倒そうとしてきた。

「あら。うちのオレンジペコがあなたにお水を掛けましたの?それは大変失礼いたしました」

 床に倒れ込まなかったのは、真後ろにアッサム様がおられたから。ダージリン様がすぐ隣で、満面の笑みを浮かべておられる。とても綺麗な笑み。限界まで怒りを抑えていると言うことがわかる。それは店内にいた全員にも、痛いくらい伝わっているだろう。

「ダージリン様」
「ペコ、こちらの方にお水を掛けたの?」
「………はい」
「余程、腹を立てたのね?」
「………はい」
「わかったわ。全員、すぐにお店を出なさい」

 身体を支えてくださっていたアッサム様は、まったく笑っておられない。それでもペコの頭をそっと撫でてくださって、その掌からは優しさを感じられた。

「わが校の生徒がご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございません。聖グロリアーナ女学院の責任者である私が、騒動を起こした1年生に代わりまして、謝罪をさせていただきます」

 ダージリン様とアッサム様が頬を腫らしている美咲さんに向かって、90度以上頭を下げている。

 こんなことをさせてしまったことが悔しくて、申し訳なくて、いたたまれなくて。


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Date:2017/04/03
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