【緋彩の瞳】 肩を組んで笑お ⑤

緋彩の瞳

ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

肩を組んで笑お ⑤

 膨らんでいたスカートのポケットから退学届けを取り出したルクリリは、ダージリン様の机の上に置いた。

「私も責任を取ります」
「私もですわ!」
「私たちも責任を取ります」

 慌ててペコも取り出して、ルクリリの封筒のすぐ傍に並べた。何にも打ち合わせをしていなかったのに、バニラたちも退学届けを書いてきていた。騒動に巻き込まれただけなのに、バニラたちが辞める理由なんてない。

「いえ。私だけが責任を取りますので、ペコ達には聖グロの戦車道を続けさせてあげてください」

 ルクリリは自分以外の退学届けをまとめて、勝手に手に取って一歩下がった。
 本当に腹が立つ。
 こういうことをサラッとしてみせるところが、ペコにはない強さなのだ。
 ペコがクラス委員をやりながらも、次期隊長にはなれないのは、何かが足りないから。
 ルクリリのような強さとか、ルクリリのようなカッコよさとか、ルクリリのような潔さとか。

 悪役になりきる心とか。

「ルクリリ!私も辞めるって言いましたわ!」
「聖グロにいろ、ローズヒップ。クルセイダーに乗りたくて聖グロに入ったんだから」
「嫌ですわ!」
 ペコたちの退学届けを束ねて捻り、ゴミみたいにしたルクリリは、胸倉を掴むローズヒップを睨み付けている。
「ローズヒップ、ここで声を荒げるな」
「ルクリリが1人で辞めるなんて、絶対にダメですわ!」
 退学届けなんて、何度でも書き直して提出すればいい。もし、本当にルクリリを退学させるのなら、すぐにでもペコは直接ダージリン様に辞めることを告げる覚悟だ。

「2人とも、周りを見なさい」

 涙目でルクリリの胸倉を掴む背中に、アッサム様が声を荒げた。ここは隊長室で、1年生は全員、ダージリン様の前に並んでいる。

「ごめんなさいです、アッサム様………」
 
 胸元が寄れたセーターをピンと直して、ルクリリがもう一度ダージリン様に向きを戻した。

「申し訳ございません。どうか、今回の他校の生徒との喧嘩は、私だけに処分を下してください」

 お願いします、とルクリリが頭を下げるから、ペコはそのズルさに腹が立って、何だか泣きたくなった。ローズヒップみたいに声を荒げて今すぐに抗議できないことも、自分だけを処分して欲しいと、ダージリン様に詰め寄ることも、ペコにはできない。一歩が重く、一言が出せず喉が痛む。

「オレンジペコ」
「………はい」
「あなたはどうするの?」
「私もルクリリと同じ処分を望みます」
「そう」
「私が最初に水を掛けなければ、騒動にはなりませんでした」
「そうね」

 ダージリン様はルクリリの退学届けを手にして、さっきルクリリがしたことを真似て、捻じってしまった。

「ルクリリ」
「はい」
「あなたの手元にあるゴミと一緒に処分しておいて」
「………はい」

 捻じれた退学届けがルクリリの手元に戻ってくる。ダージリン様は退学届けを受け取るつもりはないご様子だ。

「オレンジペコ」
「はい」
「聖グロの戦車道はあくまで優雅。自らの手で自らの未来を汚すことはあってはならないことよ」
「はい」
「光の中を一人で歩むよりも、闇の中を友人と共に歩むほうが良いこともある。でも、あなたが選んだ方法がその時の最善であったのなら、それは聖グロの総意とされるの」
「………はい」
「ティーネームを授かっていることを、あなたがノーブルシスターズと巷で呼ばれ、注目を集めているという身分であることを、今一度深く考えなさい」
「はい、ダージリン様」

 もう一度、1年生をじっくりと眺めている瞳。
 どっしりと椅子の背もたれに身体を預けて、とても優雅でいらっしゃる。

「1年生が起こした問題については、教育担当のアッサムが報告書を作成し、OG会に説明に行きます。戦車道1年生は全員、連帯責任として早朝より校内清掃、訓練場の清掃をすること。当然、それ以外にも、暴力を振るった生徒、暴言を吐いた生徒にはそれなりの罰を受けてもらいますので、心の準備をしておきなさい」

 アッサム様が手元のファイルから、いくつかの封筒を出して、ルクリリに見せてくださった。
「寛大な処分を求めて、多くの生徒が署名しています。戦車道2,3年生、整備科全生徒、情報処理部。どれだけの人があなたたちのことを想っているか、どれだけの人の信頼を背負っているか、きちんと考えなさい。お願いだからこれ以上、私たちをがっかりさせないで」

 退学届けというゴミをきちんと処分するようにと念を押され、1年生は全員寮に戻るようにと言われた。これから、謝罪行脚のため、先輩方の寮室を訪問しなければならない。


「ルクリリ、どうして1人だけで学校を辞めようとしたんですか?」
「当たり前だろ。私に売られていた喧嘩なんだ」
「水を掛けたのは私です」
「そうさせたのは、私だろ」
「そう言う無駄にカッコつけるの、どうかと思います」
「別にカッコつけのためじゃない」
 隊長室の扉を開け、早足で歩きながら、ペコはルクリリの腕をきつく引っ張っていた。ちっぽけな力では何の効果もないけれど、怒っているということは伝えたい。腹が立つのだ。でも多分、自分に腹が立っている。ルクリリのようなことができない自分に。どこまでも、悪者になりきれなかった自分に。

「ルクリリはズルいですよ。そう言う所の全部がズルいです!」
「はぁ?何がどうズルいって言うの。私が売られた喧嘩なんだ。みんなを巻き込んだのは私のせいなんだから、責任を負うのは当たり前なんだよ」
 腕や背中を叩いても、何ともないと言わんばかりのルクリリ。精一杯力を入れて叩いても、全部受け止められて、そして消えて行ってしまう。
「ペコ、もうやめましょうよ。誰も退学にならないのだから」
「そうですわ。また揉め事を起こすと、アッサム様にお尻を叩かれますわ」
 バニラにたしなめられてローズヒップに無理やりに引き離されても、帰る方向だってずっと同じで過ごす部屋も同じで。目頭が熱くなって悔しいって思うのは、ダージリン様に怒られたからでもなくて、反省しているわけでもなくて。

 本当に、悔しい。
 ダージリン様のためにぐっと我慢することも。仲間を想い、嫌われてでも守ろうとすることも。どちらもペコには出来なかった。


 集まってくれていた1年生全員に、退学は免れたと告げて、改めて頭を下げた。みんなホッとして嬉しそうだけれど、連帯責任の罰が待っているのだ。もう慣れっこになった、なんてニルギリたちは言ってくれる。何の悪さもしていないクラスメイト達を巻き込むことが心苦しかった。でも、ダージリン様の指示なのだ。自分の行動が誰かを傷つけ、迷惑を掛けるということを、身をもって学べと言うことなのだろう。整備科や情報処理部の1年生たちも集まっていて、みんなで罰を受けようって、何だかやる気がみなぎっているように見える。
「ペコが水を掛けたんでしょう?」
「………はい」
 整備科のチャーチル担当の1年生が、目を赤くしているペコの肩を優しく叩いてきた。さっきまでルクリリに食って掛かっていた声。バニラたちに引き離されて唇を尖らせたままだ。
「よくやったわ。きっと、後でアッサム様から褒められるに違いないわ」
「いえ……流石にそれはないと思います。こんな騒動になってしまったわけですし」
「でも、ペコが我慢できない程だったのでしょう?聖グロの生徒として、ダージリン様への侮辱を笑って聞き流すなんてしてはいけないのよ。やるときはやらないと」
 周りの皆も、ペコが手を出したということは、よほどの暴言だったと捉えているようだ。だからこそ、ほんの数時間で嘆願書を集めてくれたのだろう。これが最初に手を出したのがルクリリなら、今頃、批難轟々だったに違いない。普段の風格の違いと言うものだ。

「みんな、ごめんなさい。何かといつも、一緒に罰を受けさせてばかりで」
「いいのよ、ペコ。聖グロの戦車道は全員で戦っているの。整備科も情報処理部も、他の学部もみんな、ペコたちと同じ想いだから。同じ道を歩んでいる仲間のためなら、どんな罰でも一緒に受けるわ」
 集まってくれた多くの仲間たちの心配の目が、なぜかペコにばかり集まって。役得だよなって思わずにいられない。ルクリリはそれも当然だろう、と思いながら眺めていた。手を取り合って微笑み合う少女たちの美しい光景。ルクリリだけが手を出していたのなら、きっと今頃、連帯責任の文句や嫌味を言われていたはずだ。



 3人でとにかく先輩お一人お一人に頭を下げに行き、夕食の時間も、食堂に集まった生徒全員に頭を下げて回った。こういう謝罪行脚に馴れている身体というのも、どうなんだろうって思いながら、ずっとずっと頭を下げ続けた。ほとんどの生徒は、ペコが水を掛けたことに対してとても寛大でいて、よくやったと言ってくださるコメントも多かった。複雑な表情を見せるペコは、笑うことも開き直ることもできなくて、ずっとずっとㇵの字に眉をひそめたまま。

 夕食にダージリン様もアッサム様もシナモン様やグリーン様も現れず、幹部の先輩方とお外に食事に出て行かれたそうだ。夕食を取りながらみんなで話し合いを持ち、ルクリリたちへの処分を決めるのだろう。
 食事中もいろんな人に応援みたいな言葉を掛けてもらい、特にペコにはみんな優しかった。そのことに苛立ちを覚えているのだろう。おかげでルクリリに対しては拗ねた態度を見せたまま。ずっとずっと、ルクリリに唇を尖らせた顔を見せ続け、その顔のまま夜は終わった。

「3人にレオタードを着せて、白鳥の湖を躍らせるという案もあったのだけれど……。今回はキャンディ達からのお願いもあって、とてもとても寛大な処分を下すことになったわ」
 月曜日。校内の清掃をして、朝食後に隊長室に呼ばれたペコたちは、ダージリン様の手から30センチ四方のラミネート加工された紙を受け取った。

「あの、これは?」
「いいと言うまで、授業以外の時間は首にぶら下げて過ごしなさい。食事中は椅子にでも掛けて、目立つようにしておくこと」
 首からぶら下げられるように紐が通されている。


『私は罪を犯しました』


 しっかりと太くて大きな字でプリントされているそれを受け取ったルクリリは、もう散々笑われ者は馴れっ子なのに、と心の中で思った。
「踊りを見たかったのに、キャンディたちの涙の訴えに負けたわ」
 ダージリン様のことだから、何かと笑わせようとされるだろうと思っていたけれど、今回は投票で罰を決めたそうだ。きっとシナモン様も反対してくださったに違いない。
「私は戦隊もののコスプレを着せたショーを見たかったのですが」
 アッサム様はペコの首に、プラカードを掛けながらため息を吐いていらっしゃる。たぶん、本当にそれを提案されたのだろう。誰の何に影響を受けて、そんな提案をされたのか。
「休み時間のたびに、その姿で他学部の教室を訪問して謝ってきなさい」
 アッサム様は携帯電話を構えて、ペコの写真を何枚か撮影された。罰を与える側がとても楽しそうなのは、どうなのだろう。とはいえ、寛大すぎるほど寛大なのだ。戦車に乗るな、とも言われなかった。ティーネームもはく奪されずに済んだ。
「罰はこれだけですか?」
 ペコはアッサム様を見上げて、本当にいいのかと確認している。いろんな人に励まされることに、かえって居心地が悪い様子だったから、目に見えた罰がこの程度なのは、優等生のペコには物足りないのだろうか。これはこれで十分、普通に考えたらキツイはずだけど。聖グロの生徒として、毎回毎回、お仕置きは恥の上書きしかない。
「白鳥の湖を踊りたいの、ペコは?」
「いえ、そうじゃありません。でも、ティーネームはく奪とか戦車道から他学部への転籍とか」
「あなたはもう、オレンジペコなのよ。身体に沁みている名前を奪ったところで、あなたが聖グロでなすべきことは変わらないわ」
 ペコの頭を撫でるアッサム様の声も表情もいつもと変わらない。過ぎたことであり、ルクリリたちがしでかしたことに対して、ここまで寛大な処分で済ませてくださるのは、ルクリリ達のことを守ってくださっているからだ。決して、殴ったり水を掛けたことを仕方がないと思っておられるわけじゃない。そう思っているのは、他の生徒たちだけだ。お2人は上手くやり過ごせない未熟さを憐れんでくださっている。もう、次はない。

「………もし、アッサム様なら。……アッサム様なら、ダージリン様のことを馬鹿にする人が目の前にいた場合、どうされますか?」
 悪いことをして、殴られるくらい怒られた方が楽なことはある。いろんな人から罵倒されて、憔悴しきるほどの罰を与えられた方が、ずっといいことだってある。ペコはたぶん、ダージリン様とアッサム様が美咲ちゃんに頭を下げたことや、謝罪のために多方面に尽力されたことが辛いのだろう。そうさせてしまったことの責任を感じながらも、周りからの励ましを受け、やるせないのだ。
「私なら、笑ってその場から離れるわね」
「………はい」
「そんな人と飲む紅茶は、とてもマズいでしょう?」
「はい」
「我慢して聞き流すことも立派なことだわ。でも、本当に守るべきものがあるのなら、耳を塞ぎ、離れてしまうことが最善策と考えると思うわ。結果的にダージリン様に迷惑を掛けてしまうもの。それに、知らない人とはいえ、そういう人間が身近にいるということを、ダージリン様に知られたくもないわ」

 あの時、傷ついたのはあの罵倒を聞いたその場にいた聖グロの生徒であって、ダージリン様でもアッサム様でもない。ルクリリが上手く交わしていれば、ダージリン様やアッサム様の耳に深いな想いが届くこともなかった。

「………もっと、うまく立ち回るべきでした」
「そうね」
 プラカードを首に掛けて、お2人に頭を下げると、その姿のまま3年生の教室へと真っ直ぐ向かった。お姉さま方は皆、携帯電話を構えて待っておられて、大真面目に謝罪しているルクリリたちを、アッサム様と同じようにドンドン撮り、保存されているようだ。どこの教室に入っても、皆動画に写真に、保存しておられてばかり。廊下を歩いても、どこかの誰かが撮影をしているから。なるほど流石にアッサム様。下を向いて歩くことも許されなくて、普通にきついお仕置きのようだ。

関連記事

*    *    *

Information

Date:2017/04/03
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/867-870dcdc3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)