【緋彩の瞳】 肩を組んで笑お END

緋彩の瞳

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ダージリン×アッサム〔ガルパン〕

肩を組んで笑お END

「アッサムは、私のことを馬鹿にする人が目の前にいたら逃げるのね」
 3人が隊長室から出て行くのを見届けると、ダージリンは膝の上を両手でポンポンと叩いた。隊長椅子に腰を下ろしているその膝の上にアッサムを座らせ、そっと髪にキスをする。
「ペコはよくやったと思いますわ」
「そう?」
「えぇ。バニラたちからの話を聞く限り、ペコが腹を立てても、致し方ない状況だったと思います」
「そう」
 睡眠時間を削って、OG会への報告書を作成したアッサムの疲れを労うように、そっと頬を撫でる。メールや電話で抗議をしてくるOGの方はいらしたが、今回の騒動は殴った原因もセットで広まっており、少ないものの、ペコたちを擁護する声もあった。いずれにしても、お怒りの愛菜さまには謝りに行かなければならない。会う口実になった、と思わないでもない。
「ダージリンは?」
「私?」
「えぇ。私や後輩たちのことを悪く言う人が目の前にいたら、どうしますの?」
「さぁ?わざわざ水を掛けることや、殴りかかるなんてことはしないわね」

 ダージリンの肩に頭を置き、ふて腐れたような視線を投げかけるアッサム。キスして欲しいのかしら、と思いながら、両手を腰に回してぐっと体を密着させた。

「では、笑ってその場から立ち去りますの?」
「どうかしら?」

 密着するセーターから伝わる心臓の音。とても穏やかで、とても心地がいい。

「ペコ達がした行為であんなに嘆願書が集まったと言うことは、多くの生徒はペコたちのしたことを良しとしています」
「そうね」
「表向きは認められないことですが、でも………どうでしょう。その場にいたら、私は止めなかったかもしれません」
 次から次に、在校生徒たちがみんなペコ達の肩を持つものだから、ダージリンとしても処分が難しかった。暴力を振るったきっかけにダージリン自身が関係していることもあり、それほどに想ってくれている1年生たちが、可愛くてどうしようもないお馬鹿な子たちで。こういうのを目に入れても痛くないと表現するのだろう。きっと、OG会のお姉さま方も理解してくださるに違いない。
「私も、あなたのことを悪く言う人間がいれば、笑顔でその場を離れるわね」
「そうですか」
「うっかり手元が狂って、淹れたての熱い紅茶が相手のお顔にかかってしまうかもしれないけれど」
「………それは、随分とうっかりしていますわね」
「うっかりなのよ」
「そうですね」
 今頃、笑われながらルクリリたちは動画や写真を撮られているに違いない。一番上手く撮影できた生徒には、アッサムから直々にご褒美がもらえる。なんて言う情報をグリーンが流しているらしいから。その動画と写真を報告書と一緒に、OG会のお姉さまにお渡しするつもりだ。

「シナモン様」

 2週間が過ぎた。もうそろそろ生徒は皆、ルクリリたちのプラカード行進を見飽きたものだ。調子に乗って、ついつい向けられる携帯電話に向かって、ローズヒップとピースサインやポーズを取ってしまったものだから、アッサム様に思いっきりお尻を叩かれた。そんなこんなで、周りが飽きてしまったこともあり、今日でさらし者の刑も終わり。清掃の罰はもうしばらく続く。

 クリーニングに出していたシナモン様のセーターを手に、お部屋を訪ねた。ダージリン様とアッサム様は連絡船で東京に出向き、OG会に事情説明と謝罪をしておられるそうだ。一緒に行って謝りたいと申し出たが、あのお2人は謝罪という名目で、OGのお姉さまたちに会いたいだけだってシナモン様に言われた。お2人とも、謝罪に行くわりには楽しそうに出て行かれたらしい。

「よかったわね。隊長と副隊長が寛大で」
「シナモン様たちが嘆願書を提出されたからです」
「あってもなくても、お2人は重い罰を与える気はなかったと思うわよ」
 お部屋に飾られている中学時代の写真には、三つ編み姿のダージリン様と仲良く肩を並べているものや、アッサム様のお部屋にもあった東日本チームの写真。
「そうですか」
 ルクリリも中学時代には美咲ちゃんと肩を並べ、沢山の写真を撮った。同じ夢を持ち、同じ道を歩もうと、互いに努力し合っていた。強すぎる憧れが2人の間にヒビを入れたのか、それとも、ルクリリがティーネームを授かっていなければ、もう少しは仲良くいてくれたのだろうか。
 ルクリリに嫌味を言って、羨ましいと声に出せない想いをペコにぶつけて、ダージリン様にもアッサム様にも、悪い意味で顔と名前を憶えられてしまった。今更、可愛そうとは思わないが、そう思えない自分が寂しいとは思う。思い出を語り合う友達がいなくなってしまうことよりも、大事な聖グロの仲間を守りたいと思った。それがルクリリの中の答えなのだ。

 想い出よりも未来が大事。
 ほんの少し、寂しいとは思う。

 シナモン様みたいに、ずっと大事にしたい想い出がすぐ傍にあれば。


「なぁに、ルクリリ?ダージリン様のお写真が気になるの?」
「あぁ……いえ。ダージリン様と同じ中学なんですよね?」
「そうよ」
「ダージリン様は昔から、あんな感じの人なんですか?」
 どんな感じ?と聞き返したい表情は、言わんとすることを理解してくださっている様子。整備科のお姉さま方の中にも、ダージリン様と同じ中学だった人はいて、髙森穂菜美がいるから聖グロを受験したと言うお姉さまもいらっしゃる。
「どうかしらね?もっと孤高の人だったわ」
「そうなんですか」
「中学時代は、その人気と同じくらい陰で嫌われていたわよ」
「えっ」
 意外って言おうと思ったけれど、美咲ちゃんみたいな人もいるのだから、東日本チームの隊長になりたいと思っていた人から嫌われることだって、あっただろう。どれだけ完璧な人でも、完璧である人を嫌う人はいるから。
「ダージリン様は容姿もそうだけど、頭もいいから。あちこちの高校から特待生のオファーもあったし、戦車道の選手としてもいい成績を残していたもの。努力してもその地位に立てない人たちはみんな、彼女のことを悪く言うくらいしか、やることがなかったのね」
「…………そのことを、ダージリン様は知っていらしたんですか?」
「さぁ?きっと、気にする時間がもったいないと思われていたんじゃないかしら」
「ですよね」
 ダージリン様のことだから、きっと笑って華麗にスルーされていただろう。あるいは孤高の人だったのなら、それすら糧にしておられたのかも知れない。
「ルクリリはどうするの?」
 アイスティを淹れてもらい、甘いガムシロップを淹れてかき混ぜた。グラスはうっすらと冷たい汗をかいていて、握りしめるとひんやりと心地いい。
 写真の中の楽しそうなダージリン様とシナモン様の微笑みが見つめてくる。ルクリリも、ペコたちに中学時代の楽しかった想い出を話して聞かせてあげたかった。だけど、そんな日はこれからも訪れることはないだろう。中学3年間、いろんな楽しいことを積み重ねてきたことが、一発殴って消えたのだ。
「私は今の仲間が大事です。私に必要なのはペコたちと築く未来なので」
「そうね。だったら、ペコに手を出させる前に、もっとうまく立ち回るべきだったわね」
「……はい」
「仲間を守るだけでは、隊長になるには足りないと思うわ。仲間が大切にしているものを守る強さを身に付けなさい」
「はい、シナモン様」
 退学届けまで準備をしてくださっていたシナモン様は、優しく、それでも静かに怒ってくださった。

 仲間が大切にしているものを守るには、まだまだルクリリは弱すぎるのだ。


 さらし者の刑からようやく解放されて、ペコはプラカードを首から外し、大事に机の引き出しにしまった。怒りに任せて起こした暴力。ダージリン様とアッサム様を心配させたり、悲しませたり、怒らせたりすることの方が辛かった。あの腹立たしさよりもずっと、ペコの方がお2人を傷つけたのだ。
 それでも、呆れられたり、放り出したりされない優しいお2人。

 ずっとその優しさに甘えて、支えることもできないでいる。

 こんなはずじゃなかった。
 まだまだ思うようには行かないものなのだと、気づかされてばかり。

「おーい、2人とも。ご飯食べに行こうよ。シナモン様が外に食べに出てもいいって許可を下さったよ」
 シナモン様の部屋にセーターを返しに行っていたルクリリが、上機嫌で返ってきた。騒動を起こしてから、ずっと幹部席で食事を取っていないし、学校の食堂以外に出歩いていない。放課後もずっと、掃除やら練習場の整備をし続けていて、学校の敷地から1歩も外に出なかった。出るなと声に出して言われたわけではなかったが、1年生たちみんな、出ようとはしなかったのだ。けじめの一つだった。
「やったーですわ!ノエル!ノエルがいいですわ」
「やだよ。ざるそばがいい。天ぷらがいい。でっかいエビの天ぷらがセットになったやつ」
 サンドイッチに飽き飽きしていたのに、洋食を欲しがるローズヒップにすぐさま腕で大きく×を書くルクリリ。
「私は中華がいいです」
「ペコ、こういう時は第3案を出すんじゃない」
「そうですわ。こういう時は、最初に手をあげた人に従うべきですわ」
右からルクリリが肩を組んで、仲間に引き込もうとして来た。慌てて左からローズヒップが真似するように、ペコの肩に腕を回してくる。

 2人分の腕は、ずしりと重い。

「いや、こういう時は第3案が一番いいのではないですか?」
「中華?北京ダックより、私は天ぷらと冷たいざるそばがいいんだよ」
「私はアボカドバーガーがいいですわ」

 重たくて、暖かくて、たぶんこの学校を卒業してからも、なんだかんだとずっとこうやって肩を組んでいるような気がする。そうであればいいのに、って思った。

 ペコが守りたかったものを守ってくれたのは、結局はルクリリで。
 ペコを庇ってくれたのは、ローズヒップで。
 必死になって一緒に謝ってくれたのは、クラスメイト。

「では、今日はおそばを食べて、明日の夜にアボカドバーガーにしましょう」
「ということは、明後日に北京ダックということか」
「はい、そうですね」
「仕方有りませんわね。天ぷらを挟んだバーガーはありませんし」

 今日も明日も明後日も、ペコと肩を組んでくれる仲間がいるのは心強いだろう。
 自分への苛立ちは、いろんな人から指をさして笑われることで、巧く処理していったような気がする。笑われるようなことをしたのだ。大切な人を守る方法を間違えたペコが悪いのだ。
 ペコがもっと早くに、ルクリリを守ってあげるべきだった。


「やっぱ、持つべきものは仲間だよねぇ」
「そんなにおそばを食べたかったんですか?」
「ん~?まぁ、色々あるんだよね」

 財布と携帯を手にしてすぐに寮を出ると、丁度、東京に出ておられたダージリン様とアッサム様が車で戻って来られるところに出くわした。

「アッサム様!ダージリン様!」

 確か、OG会のお姉さま方にお詫びに行っておられたはず。どれくらい怒られたのかはわからない。きっと学校を辞めさせろとか、ティーネームをはく奪だとか、OG会のお姉さま方はきつくおっしゃったに違いないだろう。聖グロの生徒として、ティーネームを授かったものが他校と喧嘩なんて前代未聞のトラブル。庇ってくださるお2人の立場も悪くされてしまう。

 それでも、お2人は全力で庇ってくださっていることを知っている。

「あら、3人とも。プラカードを持って外に食べに行かないの?」
 助手席の窓を開けたダージリン様は、とても綺麗な笑み。怒られてきたようには見えない。
「いや、あれで外に出るのは流石に」
「そう?カッコよかったのに」
「………勘弁してください」
 聖グロの学生艦に住んでいる人にも、当然今回の事件のことは筒抜けで、何だかんだと学校の外にまで清掃作業をしに行った過去もあるから、あぁ、また戦車道1年生ねって笑われていることは、潮風に乗って伝わってきている。

 それでも、受け入れてくれているのは、ルクリリが次の隊長だってみんなが知っているからだと思う。何となく、そう思えるのだ。ダージリン様が選んだのならば、間違いはないだろうっていう空気もある。
 守ろうとして傷つける結果になったペコよりも、ずっと、本当の意味で聖グロを守ることができるのは、たぶん、1年生ではルクリリしかいないんだと思う。

「ダージリン様、アッサム様。OGのお姉さま方たちはどうでしたか?」
「相変わらず3人とも仲良くしていらしたわよ。ルクリリお姉さまもいろんな意味で相変わらずだったわ」
「……いえ、えっと、そうではなくて。あの、私たちの処分は?」
 なんだかとても楽しくお茶してきたと言ったような笑みで、ダージリン様はとても余裕でいらっしゃる。どんなやり取りをされたのか、さっぱりわからない。
「処分?あぁ、あなたたちがプラカードを首からさげて校内をうろついていた動画も写真もすべて、お姉さまたちに見せたわ。ルクリリお姉さまは、手を叩いて喜んでいらしたわ」
「………はぁ、そうですか」
 ダージリン様とアッサム様が厳しくお叱りを受けずに済んだのなら、笑われるくらいは大したことではないけれど、あまりにも楽しそうに微笑むから、何だかもやっとしてしまう。

「ところで、あなたたちは何を食べに行くの?」
「おそばを食べに行きます」
「あらそう。私はアッサムがどうしても中華と譲らないから、今日は中華にするわ」


「「「私たちも中華を食べます!!!!」」」


 ノエルがいいとか、天ぷらとざるそばがいいと言っていたのはどこの誰だったのだろうか。ペコの声に重ねてきた両再度の2人が、肩を組んでポーズを決めている。
「あらそうなの。じゃぁ、どうぞ、ご自由に食べたらいいんじゃないかしら?」
「え~~!ダージリン様とアッサム様と一緒がいいです!」
「そうですわ!もう、ずっとずっと一緒にご飯もお茶もしていませんわ!」
 勝手に後ろの座席に乗り込む2人に、遅れを取らないようにペコも乗り込んでドアを閉めた。

「あなたたち、本当に反省しないのね」
 運転席のアッサム様は、バックミラー越しにため息を反射させて、それでもゆっくりとサイドブレーキを外して校門へとUターンを始める。
「あら、アッサム。アールグレイお姉さまに甘えた声を出して、3人を庇っていたのはどこの誰かしら?」
「オレンジペコお姉さまの腕にしがみ付いて、ふて腐れていた人もいましたわね」
「“あらやだ”、バニラお姉さまのことかしら?」
「“あらやだ”、ダージリンことですわ」

 何だかよくわからないけれど、お2人がOGのお姉さまに甘えたり拗ねたりして見せて、ペコたちを庇ってくださったと言うことは伝わってくる。

「ダージリン様」
「なぁに、ペコ」
「ごめんなさい。もう、悪いことはしません」
 後部座席からダージリン様の両肩に手を伸ばして、セーターを握りしめた。優しい手のひらが甲を撫でてくださる。
「ペコ」
「はい」
「私たちのためではなく、仲間のために強くなりなさい」
「はい」
「仲間を守る方法をルクリリ達と一緒に考えていくことね」
「はい」

 必死になって、考えなければならないのだ。
 守る方法を。これからもずっと、肩を組んで笑っていられるために。

「大丈夫ですわ、ダージリン様!このローズヒップがペコとルクリリをしっかり守って見せますわ!」
「あら。期待しているわね、ローズヒップ」
 
 クスクス笑うダージリン様の声と、呆れて何も言えないアッサム様の横顔。

「ルクリリ」
「ん?」
「ありがとうございます」
「何が?」
「………色々ですよ」
「ふーん。なんだ、もう拗ねたりしないんだ」
「はい」


 ルクリリが腕を回して、ペコの首に絡めてくる。苦しさから逃れるように、イヤイヤとダージリン様に助けを求めたけれど、バックミラー越しに笑うダージリン様とアッサム様にはきっと、じゃれているようにしか見えないのだろう。


 次は、本当にちゃんと仲間を守れるように。

 強くなれたらいい。







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Date:2017/05/22
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