【緋彩の瞳】 人魚殺人未遂事件

緋彩の瞳

みちる&レイ小説[幼馴染]

人魚殺人未遂事件

「お母さんを救うためには人魚がいればいいんだよ」
美咲は1つ年下の妹の手を握りしめて、自分に言い聞かせるようにそう言った。人魚なんてこの世に存在しない伝説だと言うこともわかっているし、例え生きていても、大人さえ見つけられないものなのに、自分たちのような子供が見つけられるわけもない。
しかも、日本の東京という都市の中で。
「千尋は吸血鬼の方が見つけやすいと思うんだ。だって、東京の海は汚いから、人魚なんていないよ?吸血鬼は人と変わらないっていうし、きっと東京にもいるよ」
千尋の方が、まだわかっているのかな、なんて思う。
こんなバカげたことでも、お互いに励まし合ってママが助かることを信じていなければ、縋るものがなければ、涙の海で溺れてしまう。
何もしないで、いない神様に祈るだけだなんて。



「レイちゃん、財布をなくしたぁぁ~~~!!!」


押し倒したレイちゃんが観念したように身体の力を抜いて、美奈子は心の中で雄叫びをあげていた。もう、本当にオスの求愛行動かというくらいに。畳にシルクのような漆黒の髪が広がり、欲をそそる唇を頂こうとしたときに、何の気配もさせずに突然開かれた襖。
うさぎちゃんの声が背後から降ってきて、押し倒した姿勢のまま美奈子は固まった。
もちろん、視線の先のレイちゃんは口づけをしようと閉じた瞳を、ものすごいびっくりした感じで開き、美奈子と視線を交わしてしまっている。
「う、う、うううさ……うっさぎっさん…」
2人の仲は秘密というか、公然の秘密というか、とりあえずはおおっぴらにしていない、正確にはレイちゃんの命令でしていないから。
「レイちゃん~~~~~!!!」
この状況についてのうさぎちゃんの冷やかしのあらゆる想定をしていた美奈子が、まだ固まっているレイちゃんなんて、ここにいませんと言ったように姿を隠そうとしてみたけれど。
押しのけられたかと思えば、畳に寝転んだままのレイちゃんに、うさぎちゃんは思いきりダイブして縋りついて泣き始めた。
「ちょっ……何、うさぎ?……何なのよ…」
「探して~~~!財布探して~~~」
おいおい、自分で探すより先にレイちゃんかよ。
子供のように泣きじゃくるうさぎちゃんに、美奈子は甘い時間なんて今日は無理だな、と諦める決心をした。きっと、だから嫌だと言ったのよ!なんて怒られるに違いないから。
「……美奈、うさぎをどかしてもらえるかしら?」
ついさっきまで美奈子がその体制でいたのに、今はうさぎちゃんがレイちゃんを襲っているようだわ、なんて観察していると、冷たい声が飛んできた。
「う、うさぎちゃん。落ち着いてよ。ね?財布、どこでなくしたの?」
お団子から出ている髪を引っ張ると、幼稚園児のような泣き顔がこちらを向く。
「あれ?美奈P……いつ来たの?」
そのセリフに”助かった”というため息を漏らしたのは、美奈子だけじゃない。


学校から帰って来たうさぎは、学生鞄の中から財布を取り出して遊びに行こうとしたけれど、ない、ということに気づき、とりあえず学校に走って帰って、机の中やら道すがらを捜し回っていたらしい。学校にも落し物としては届いていないんだとか。
「あんた、そもそも学校に持って行ったのは確かなの?」
「うん、だってお昼ご飯の前に買い食いしたもん」
ふんぞり返るところだろうか、そこは。レイは心の中で突っ込んだ。
「それは自分の財布から出したお金なの?間違いないの?」
とりあえず美奈が何をしようとしていたのか、自分が押し倒されていたということもうさぎは気が動転していてわかっていなかったらしいし、早く本題に入って財布を探しさえすれば、すっかり忘れてくれるだろう。
「じゃぁ、私が食べたアンパンは拾いものだってーの?」
「財布を落としたタイミングを特定しようとしているだけでしょ?ほら、ちゃんと思いだしなさい」
ここに来るまでに、警察に届ければいいのに。先にこっちに来たらしい。誰かが拾えば学生証も入っているから、連絡は来るだろうが、今のところはない様子。
「そんなことよりさ~、祈祷をして財布の声を聞いてよ」
「財布に声なんてあるわけないでしょ!」
「昨日、お小遣いもらったばっかりなのに~~!!」
知らないわよ。突っ込みながらも、代わりに美奈を睨みつける。慌てたように視線をそらすけど、向こう1週間くらいは手も握らせるつもりはない。
「んで?そのお小遣いからアンパンを買って、その後は何か買った?」
「……えっと…えっと……あれ?」
うさぎが何かを思い出したように首をかしげる。それを見た美奈は腕を組んで同じように首をかしげた。馬鹿そうな顔は時々双子のように見える。
「あれ?うさぎちゃんさ、アンパンってはるかさんから買ってもらったんじゃないの?」
「はるかさん?美奈、それ本当?」
「うん、確かそう。10時に開いた購買部に走ろうとしていたら、はるかさんが前を歩いていて、おねだりしたら買ってくれたって。私もはるかさんにおねだりしに行ったもん」
「………あんたさぁ」
レイは十番高校の購買部がどんな様子なのかは分からないけれど、10時からパンを食べるって朝ご飯を抜くほどギリギリだったのか、それとも食いしん坊なのか。はるかさんもそうだけど。
「いやいや、いろんなものが売ってるから。何もパンだけじゃないんだって」
言い訳にもなってない。結局、美奈がはるかさんに食べものをねだったことは間違いないのに。
「……もういいわ。それで?じゃぁ、うさぎはその時は財布を持っていなかったのなら、最後に財布を手にしたのはいつなの?」
さらりと美奈の言い訳を無視して、うさぎの記憶をゆっくりと辿っていく。
「うーんと。じゃぁ、いつなんだろう。えっと、お昼はお弁当だったでしょ?そんでもって、お弁当のあとジュースを買って…いや、買おうと自動販売機に行ったら、みちるさんがウーロン茶を買っているところに出くわしたから、じっと見ていたら、ジュースおごってくれたんだよね」
「うさぎちゃん、ズルい!」
「……美奈、黙りなさい」
みちるの性分なのだろうから、ジュース奢るくらいは大したことじゃないかもしれないけれど、学校生活では馬鹿たちを甘やかせないようにしてと、何度か注意したはずなのに。レイに向かって同じセリフを言っているくせに、学校内のことは黙っていればバレないと思っているんだろう。
「レイちゃんには内緒だよ、ってみちるさん言ってた」
「ダダ漏れじゃない、うさぎちゃん」
「なんでそこで、レイちゃんの名前が出たんだろうね」
「………そんなことはどうでもいいから。あんた、その時は手に財布を持っていたわけ?」
美奈は何か言いたそうにしているけれど、レイの顔を見て、”言えばいいのに”って言いたそうにしている。美奈はレイとみちるが仲良くしていることの裏側を知りたがっている。前にみちるの実家で騒動を起こした時も、説明をして欲しそうにしていたけれど、結局は言わなかったし、しつこく聞いても来なかった。のらりくらりとぼやかしている関係が一番いい。
「…ん~どうだったかな」
「ジュース欲しいって思っていたのに、財布持たずに自販機の前に行ったの?」
「ん~……いや、自販機の前をたまたま通りかかったんだったかな。そしたらみちるさんがいたんだ」
「じゃぁ、財布は?」
「お弁当箱しか持ってなかった」
「そもそも、今日財布を持って学校に行ったって言いきれるわけ?」
「だって、持って行ったもん」
「でも、学校では財布を取り出してないんじゃない?家に帰るまでに、財布を見たという記憶はあるの?」
うさぎのように、教科書も参考書も全て学校に置いたままの馬鹿が、頻繁に鞄の中を覗きこんだりするだろうか。そもそも財布を学校に持っていってないんじゃないか?レイは問い詰めると、うさぎが何かひらめいたように、掌をポンとたたいた。
「今日、まだ財布見てないや!」
「…じゃ、昨日は?」
「まもちゃんとデート」
財布の話だってば。
「んじゃ、その時使っていた鞄の中にでもあるんじゃないの?」
「なるほど!そうかも!!!!!」
この世の終わりのような顔だったくせに、幼稚園児のような笑みになったかと思えば、今度はドタバタと派手な音を立てて出て行く。
「……探さず、先にレイちゃんって。愛されているよね」
「あんたも帰ってもいいわよ?」
「いやいやいやいや。レイちゃんの優しい心を探しています」
そんなものはどこにもないわ。
何事もなかったようなふりをして近づこうとするから、肘鉄を食らわした。
うさぎから鞄の中に財布があったと連絡が来たのはその15分後。
すっかりしょげていた美奈は、うさぎの間抜けを存分に恨むような言葉を散々口にしていた。



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Date:2014/03/22
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